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予約における「希少性」と「時間圧力」の活用

考察

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2020.09.07 2021.11.17
中谷 淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

INDEX

皆さんこんにちは。

ホテルや旅館を予約する際に使う予約サービスは「じゃらん」が多い中谷です。
今回は、予約における「希少性」と「時間圧力」についてお話します。

予約サイトにおいてユーザーアクションを促すアプローチ

皆さんは、ホテルや旅館の予約の際、宿泊プランにある「残り◯部屋」といった表示が気になりませんか?

残り部屋数に余裕があれば、さほど気にならないのですが、それが「残り1部屋」だと分かってしまうと、

「他のホテル・旅館を見ている間に、売り切れてしまうのではないか?」

と(ほんの少しですが)不安に感じてしまいます。

さらに、自身がよく使う「じゃらん」のサイト上では、残り部屋数の他に「◯時間前に◯人に予約されました」「現在◯人が見ています」といった表示まであり、「他を見ているうちに満室になってしまうのではないか?」と、さらなる不安を煽られます。

ビジネス目的の利用で質より価格重視の場合などは、予約サイト上のこのような手法によって、他を探すことなく、その瞬間すぐに予約をしてしまうことがあります。

皆さんは、そんな経験はありませんか?

「残り◯部屋」と表示することにより「売り切れてしまうかもしれない」という心理にさせ、比較検討をしている消費者に対して素早い意思決定を促す効果が期待できます。

ホテル・旅館(もしくは予約仲介サイト)側からみれば、他に流れてしまうことを防ぎたいわけですから、その場で決めてもらえるよう不安を煽ることは、打ち手としては正しいですよね。

自分のような予約行動は、宿泊予約サイトからすると「思うツボ」なのかもしれません。

「希少性」と「時間圧力」が消費者に与える影響

この残り部屋数や、直近の予約実績、現在閲覧している人数を表示することは、マーケティングの世界における「希少性」と「時間圧力」(タイムプレッシャー)で説明が出来ます。

「希少性」については、言葉の通り「希少」であることで、その商品・サービスを魅力的に感じることです。希少性は一般的に「数量が限られている」もしくは「時間が限られている」場合に生じます。

みなさんが、もし「限定◯個の特別仕様」や「期間限定販売」といった言葉に反応し衝動買いをしてしまったという経験があれば、それは希少性の影響によるものです。

希少性を上手に活用することはマーケティングにおいて大切なことですが、それを乱発したり、その裏付けが弱かったりすると活かしきれないので留意が必要です。

「時間圧力」(タイムプレッシャー)は心理学の分野で研究が発展し、昨今では経営学の分野でも研究されている概念です。

例えば、新幹線の発車時間が差し迫っているときに、ホームの売店でお弁当を買うとしましょう。その際、発車時間が気になって、十分に比較検討せずに普段買わないようなお弁当を買ってしまったなどという経験はありませんか?

「時間圧力」とは、まさにこういう状態の消費者行動を言います。

その定義については、研究者によって多少の言い回しに違いはありますが、「限られた時間内で消費者が購買意思決定を行わなければならないという、一種の心理的ストレスが生じた状態」とされています。

先のホテル・旅館予約の例では「残り◯部屋」という希少性に加え、「次見るときには売り切れているかもしれない」という心理的ストレスが生じていますので、明確な時間が表示されてはいませんが「時間圧力」による行動として差し支えないでしょう。

「あと10分で販売終了します」といった明確な期限があれば、心理的なストレスはそう感じないかもしれません。が、いつ売り切れてしまうか分からない、それは1分後かもしれないし1時間後かもしれない、もしかしたら明日もまだ残っているかもしれない、という状況が心理的なストレスを高めていると言えます。

そして巧みだなぁと思うのは、そこに「現在、◯人が見ています」という情報を加えることです。自分と同じような属性の人が、同じようにホテル・旅館を探索し予約しようとしていることを明らかにすることで「早く決めなければ」という気持ちを増幅させます。

十二分に比較検討し選ぶことができるよう情報提供することも大切ですが、1人でも多くの人に、少しでも早く「決めてもらう」「予約してもらう」ことを最大の目的とした場合、「希少性」や「時間圧力」を活用した販売手法を取り入れることも大切なことと言えそうです。

活用する上での注意点

ただ、もちろん「やりすぎ」はよくありません。

限定が毎日出ていたり、限定と言いながら、実は継続販売したり、十二分な在庫があったりと、必要以上に煽ってくるような企業に対し、消費者がどう思うかは、説明不要ですよね。さじ加減を1つ間違えると、サービスの顧客離れにつながることに留意が必要です。

例えば、先に記載した予約サイトにある「今、◯人が見ています」という表示。私は、時間圧力を増幅させるための、偽情報なのではと若干疑ったりしています。もし偽情報であったら、それは企業姿勢としては許されることではないですが、確認しようがありません。

また「残り1部屋」などと表示され、その後、宿泊予約サイト上で売り切れても、ホテル・旅館に直接問い合わせたら空いていたということもあります。厳密には嘘ではないのでしょうが、一度希少性に対して疑念を持つようなことがあると、宿泊予約サイトのみならず、該当のホテル・旅館までもイメージが悪化しかねません。

企業側としては「希少性」や「時間圧力」を上手に予約ビジネスに活かし顧客獲得につなげることが望ましいですし、消費者側としては、そうしたテクニックを知って賢く検討し予約したいものですね。

ということで、今回は「希少性」と「時間圧力」についてでした。

 

<参考文献>
1)鈴木拓也 (2004)「消費者行動に対する内在的影響要因としての“時間の庄力”と外在的影響要因としての“時間の 制約”」『早稲田大学商学研究』
2)安藤和代 (2007)「時間圧力と購買者の知覚リスク—注文住宅購買者の購買行動データの分析」『早稲田大学商学研究』
3)三富悠紀(2016)「時間圧力と「延期の決定」?―経営学輪講 Dhar and Nowlis (1999)― 」『赤門マネジメント・レビュー』
4)平木いくみ(2012)「マーケティングにおける希少性とその原因」『実践女子大学人間社会学部紀要』

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中谷淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

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