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企業が抱えるDXの課題を知り自社のDX化を進めよう

知る・学ぶ

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2022.06.06 2024.03.05
PCとDXの文字
えんどう

リサーチ会社で調査報告書を執筆したり、メーカーでキャッチコピーを作ったり、出版社で編集をしたり、フリーライターとして記事を書いたり。なんだかんだ文章に付かず離れず生活してきました。現在は森林についても勉強中。

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DX(デジタルトランスフォーメーション)は多くの企業が取り組んでいます。
経済産業省は推進指標としてのDXを、「データのデジタル化(デジタイゼーション)」、「業務・製造プロセスのデジタル化(デジタライゼーション)」、そして「組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革(デジタルトランスフォーメーション)」という3つの段階に分解しました。そしてこの構造をDXとして定義しています(※1 経済産業省「DXレポート2 中間とりまとめ(概要)」)。
しかし現状では、大企業であってもなかなか成果までつながっていません。
今回は日本においてDXが進まない原因となっている3つの課題とその解消策について解説し、自社でもDXを進めていくヒントを探っていきます。

※1 出典:【経済産業省】DXレポート2 中間とりまとめ(概要)

国が危惧する「2025年の崖」とは

崖に立っている人の足

現在、多くの企業がDXに取り組んでいるのは、国が企業のDXを推進していることも大きな理由となっています。
なぜ国は企業にDXの実施を求めているのでしょうか。それは「2025年の崖」と呼ばれる危機的状況を回避し、日本企業の国際競争力を維持するためです。

「2025年の崖」とは、経済産業省が2018年に公開したDXレポート(※2)で触れられた、日本企業が抱える状況を指すことばです。経産省の試算によればシステムの老朽化やIT人材の不足等によって年間あたり最大で12兆円の経済損失が生じるとされています。

今後、海外企業が、DXによる新しいビジネスモデルを武器に、日本市場への参入を加速させていくことが予想されます。それらに対抗するためにも企業はDXを進めなければいけません。
またグローバル競争だけでなく、システム障害などのリスクが高まることも2025年の崖として危惧されています。
現状、多くの企業はDX未着手か、DX途上でしかありません。“崖”は確実に近づいている状況なのです。

※2 出典:【経済産業省 / デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会】DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~

DX推進の課題1:人材面

人手不足のイメージ(点線と実線の人のシルエット)

どれくらい人材が不足しているのか

経産省の試算では、2025年までに約43万人のIT人材が不足するといわれています。
また総務省によると、DXを進める上での課題として、53.1%が「人材不足」を挙げています(※3 2021年7月「情報通信に関する現状報告(令和3年版情報通信白書)」)。
また、ITエンジニアの多くはベンダー企業に在籍しているため、ユーザー企業におけるIT人材は特に不足しています。

※3 出典:【総務省】令和3年「情報通信に関する現状報告」(令和3年版情報通信白書)

人材不足によって引き起こされる課題とは

現状では、IT人材を既存システムの維持管理に投入しています。しかしこれでは、ただでさえ不足しているIT人材を有効活用しているとはいえません。
今後IT人材の不足が深刻化すると、必然的に保守運用者の不足につながります。つまりセキュリティリスクが増大していってしまうのです。

またユーザー企業にIT人材が不足していると、高度な技術に対する知見不足からベンダーの提案を丸呑みしてしまいます。システム開発はもちろん、要件定義までベンダーへ丸投げする例もあるため、事業部門では成果物に満足できない状況に陥ってしまうでしょう。
ユーザー企業におけるDX人材の不足は、ITで何ができるのかを理解できる人材が不足すると言い換えることもできます。また、ベンダー側も既存システムの維持や保守で手いっぱいになると、新規開発など競争領域にシフトできません。

DX推進の課題2:経営戦略面

頭を抱えるビジネスパーソン

日本企業は経営戦略の面でもDXが進まない課題を抱えています。
そこにはシステムの運用戦略だけでなく、経営層の意識の問題もあります。

既存システムの負債化

多くの企業は外部環境の変化に対症療法的にシステム仕様を追加・変更してきました。また、担当者の度重なる変更がシステムの複雑化や、退社した担当者しか詳しい仕様がわからないブラックボックス化につながっています。
このほか、使用システムが部門ごとの“縦割り”になっており、横断的なデータ活用ができていないというケースもあるようです。

上記のような状態のシステムをこれからも運用・保守しようとすると多くのコストを要します。また、機能を追加しようとすればさらなる複雑化を招き、益々コストがかさむようになるでしょう。まさに負のスパイラルです。

長期的観点によるシステム開発や改良をしてこなかったことで、結果的に保守・運用の費用が高騰している状態のことを「技術的負債」と呼びます。きちんとした戦略をもとに開発・改良していれば本来は不要だったコストを払い続けなければならないので、一種の負債と捉えているわけです。
既存のシステムはこうして“負の遺産”となり、DXを阻んでいるのです。

経営層のDXにおける根本的な誤謬

日本の経営層のなかには、単純なデジタル化の取り組みをもってDXと考えているケースもあるようです。
実際、彼らがIT技術の目的としているものは「既存の商品・サービス・事業の付加価値向上」、「営業・マーケティングプロセスの効率化・高度化」、「生産プロセスの効率化・高度化」、「人材・組織マネジメントの効率化・高度化」などです。これは既存の業務プロセスを効率化・高度化することであり、“既存路線の改良”でしかありません。
DXが目指すのは“抜本的な事業構造の変革”です。デジタル化はあくまで「手段」であり、その先にある製品・サービス・ビジネスモデルの変革を進めることこそDXなのです。

DX推進の課題3:IT投資面

維持と改革の道標

DX推進の課題3つめは、IT投資です。人材不足の話でも触れましたが、日本では人的資本をシステムの維持管理、つまり保守面を重視する傾向があります。それはIT投資においても同様なのです。

その“レガシー”は大切にすべきものなのか

経済産業省の「デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討〜 ITシステムに関する課題を中心に〜」(※4)によると「IT関連費用の80%は現行システムの維持管理(ラン・ザ・ビジネス)に使われている」と指摘されています。

オーダーメイド開発された独自の基幹システムは、開発時は業務に最適化できているかもしれません。しかし、その独自性ゆえに拡張性が低く保守にもコストがかかる「レガシーシステム」になりがちです。そしてすでに述べたように、対症療法的なアップデートはシステムの複雑化や、技術者の退職によってブラックボックス化してしまうこともあります。
こうしたレガシーシステムによってシステム障害が発生するリスクも高まっているといえるでしょう。

※4 出典:【経済産業省】デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討~ITシステムに関する課題を中心に~

守りのIT投資からの脱却

上記のように日本企業では、現状維持のためにIT投資をしています。しかし米国などのDX先進国のようにITを使った分析強化や、市場・顧客変化に対する対応力、ビジネスモデル変革など思い切った“攻めのIT投資”を進めなければDXの推進はありえないのです。

DXの人材面における課題解決策

多様な世代のビジネスパーソンが集まって話す

DXの推進には、自社ビジネスをデジタル技術で改革していく必要があります。したがって、自社ビジネスをよく知っているデジタル技術者が不可欠です。
つまり自社に合わせたアプリケーション開発や先進技術を使いこなす人材を確保、育成しなければいけません。

人材不足にどう対処するか

今後DXを推進したい企業が確保、育成しなければならない人材は具体的にどんな能力をもっていなければならないのでしょうか。例えば以下のような人材が考えられます。

  • 日常業務のデジタル化や、自社用にカスタマイズされたアプリ設計ができる人材
  • デジタル技術だけでなく、自社のビジネスや業務プロセスにも詳しい人材
  • デジタル化を牽引し、社員のデジタル教育もできる人材
  • 管理職や経営層においてDXを絡めた戦略を策定できる人材

こうした人材を確保する方法は大きく分けてふたつあります。
ひとつはデジタル技術を持つ人材を採用してしまうことです。これはスピードを重視している場合に有効でしょう。ただし、自社の業務やビジネスを理解してもらうための教育は必要です。
もうひとつは既存の社員にデジタル教育を施すことです。時間はかかりますが、自社ビジネスを理解したデジタル人材を確実に確保できます。

ベンダー企業との関係性も重要

上記の方法を同時並行で進めていき、IT人材を増やしていくことがDXを推進していくのに不可欠です。
このほか、ユーザー企業とベンダー企業の新たな関係構築も重要です。現状のようなベンダー企業への丸投げは、責任もベンダー企業となるケースが多いため、ベンダー企業は思い切った開発がためらわれてしまいます。また、要件定義が不明確だったり、アジャイル開発にも支障があるでしょう。ユーザー企業とベンダー企業はこれまでの契約モデルを見直し、DXを推進できるように協力体制を築いていきたいものです。

DXの経営戦略における課題解決策

空を指差すビジネスパーソンの手

DXではITによって業務レベルの変革に留まらず、ビジネスそのものの変革が目的になります。デジタル化はゴールではなく、DXを目的達成するための手段でしかありません。したがって、DXを推進するには経営層が積極的にコミットメントしていくことが不可欠です。

DXを見据えた経営戦略とは

これからの経営戦略は、DXを進めることで自社のビジネスモデルをどう変化させたいのか、どのような価値を生み出すのかを考え、具体的なビジョン・事業構想を検討する必要があります。
それにはロードマップを描き、全社的にDXを推進しなければいけません。各部門がバラバラにDXに取り組んでも方向性が定まらず、結局どこかにボトルネックが生じてしまうでしょう。
また、これまでのやり方を変えることは現場から反発がある可能性もあります。そんなときこそ経営層のリーダーシップによって社内の全部門をまとめあげ、DXに取り組むことが重要です。

DXを達成する経営者の心構え

「流行りのAIを自社業務に導入しよう」というレベルの戦略ではビジネスに革新を起こすことはできないでしょう。IT人材やベンダーに丸投げするのではなく、経営層もDXについて深く理解する必要があります。
モバイル端末の一般化、SNSによる情報拡散、ライフスタイルやニーズの多様化などによって、いわゆる“大衆”をターゲットにした製品やサービスが通用しなくなってきています。細分化されたニーズを把握して経営目標を設定するためにもDXは不可欠な要素となっています。

DXのIT投資における課題解決策

ルーペで拡大された「問題点」の文字

DXを推進するためには、どういう投資が求められているのでしょうか。それはずばりバリューアップに向けた投資です。

自社のITをバリューアップさせる

まずは自社の情報資産の現状を機能ごとに分析・評価しましょう。刷新する必要があるもの、現在は不要な機能など、丁寧に洗い出します。
システムを刷新する際は、必ず戦略的に行います。例えば、業務を効率化する上で余計な工程が発見されれば、工程そのものを見直す必要があります。なぜなら、業務を円滑にするためにシステムがあるはずなのに、古くなったシステムに合わせて無駄な業務を行っているのでは本末転倒だからです。
また、経営戦略や新しいビジネスモデルを踏まえた全体最適化を心がけましょう。たとえAの部署が100効率化しても、全体で10しか効率化しないなら、他に問題があるはずです。
システムを見直す際は、今後のビジネスモデルの変化に対応できるか、他のシステムと連携がしやすいかといった観点も踏まえましょう。例えば、機能をクラウド上で再構築するというのは有力な選択肢になるでしょう。

自社でもDXを推進するためにはどうするか

人差し指を立てるビジネスパーソン

これまで経産省のレポートなどから日本企業におけるDX推進の課題とその一般的解決策を見てきましたが、自社でも具体的に対策するにはどうしたらいいのでしょうか。
ここでは、これまでの内容を踏まえて3つのヒントを提示します。

①時代に合ったITシステムの構築や最新のIT動向把握

現在はIT技術の進歩もどんどん加速しています。最先端のITを自社で使っていくには、継続的な情報収集と、それを反映させる技術力が必要となるでしょう。これには専門的な知識を持ったIT人材だけでなく、それを理解し、自社のビジネスにどう活かすかを考える柔軟な思考力を持った経営層が必要です。
注意点としては、既存のITシステムの刷新であれ改良であれ、他とのデータ連携は欠かせないということです。常に自社ビジネスの全体を見据えたIT活用がDXには求められるのです。

②投資事例や情報を取得し戦略立案

他社のDX事例を幅広い視点から収集しましょう。同じ業界の動向だけでなく、幅広い業界の事例も参考になります。また、他社の失敗事例も「人の振り見て我が振り直せ」で重要な情報となります。DXを進める際は技術だけでなく、他社がどういうIT投資をしているか、どういう経営戦略を採っているかなど常にアンテナを張っておきましょう。

③新たな顧客ニーズの創出

対外的なIT投資、いわゆる“攻めのIT投資”によって新しい顧客ニーズを創出しましょう。
これからはターゲットのニーズ動向に追随するだけでなく、市場全体の変化や競合の動き、新しい技術など、あらゆる角度から情報を分析し、そこから浮き彫りになった情報と自社の強みをかけ合わせ、顧客ニーズを“先読み”することが求められます。自社でしかできない新しい価値を提示することがDX時代のビジネスに求められています。

▼DXのさまざまな話題については、以下の記事でもご紹介しています。
店舗DXとは? 効果的な施策や必要性を解説|導入メリット、成果獲得のポイントも
DX化の成功事例17選を紹介! 事例から見えてくる推進に外せないポイントも解説
小売業界のDXとは? メリットや導入事例、成功させるポイントを解説

自社のDX課題を把握し確実に実行することが大切

経済産業省が2018年のDXレポートで危惧した2025年の崖は、2年後に公開されたDXレポート2の内容を見る限り回避されているとはいえない状況が続いています。
今回見てきたように、日本企業がDXを実現するための課題は多くありますが、課題を把握するだけでは無意味です。
DXは「会社に余裕がある時に行う」では手遅れです。むしろ、予想される激動のビジネス展開で自社が埋没しないために不可欠な施策といえます。競争力を失い、気づいたときにはDXをする体力がなくなっていたという状況にならないためにも、自社の現状を冷静に把握し、経営者が危機意識を持ってDXを実行に移していくことが重要です。

えんどう

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