企業の競争力保持やIT人材、労働人材の不足などの課題へ対応するために、各業界でのDX推進が求められています。不動産業界でもDXにより業務の効率化や顧客満足度の向上などにつながる一方、具体的にDXへ向けて何をすべきか分からないという方も多いでしょう。

本記事では、不動産業界でDXを推進するメリットや似た言葉との比較とともに、具体的な不動産業界でのDXの種類や方法の解説、さらに企業のDX導入事例を紹介します。自社や店舗でのDX推進にぜひ役立ててください。

不動産業界でDXを導入するメリット

DX(デジタルトランスフォーメーション)という飾り文字

不動産業界でDXを取り入れることで得られるメリットを解説します。

業務の効率化

不動産業界でDXへの取り組みを実施すると、以下のような業務上の問題解決につながります。

  • 目視で確認していた物件情報をシステムで一元管理できる
  • 予約システムを取り入れることで、予約電話の応対のためにコア業務の手が止まることがなくなる
  • システム導入による人的ミスの防止

システムやツール、AIなどが今まで人が行ってきた定型業務を取って代わることで、顧客応対などのコア業務を強化することもできます。

顧客との商談機会の増加

DXを導入することで、オンラインでの不動産の内見や不動産物件の説明会、セミナーなど各イベントへの参加も可能になります。物件から遠方にいる顧客や、コロナ禍における非対面非接触での商談を希望している顧客と商談の接点を持つことで、賃貸物件の契約や物件の売買契約の機会の増加が期待できます。

進学や転勤など引っ越し期日が決まっていて、オンラインで内見を済ませて物件を決めたり、遠方に住んでいる家族や両親とともに物件の内見ができたりといったメリットもあります。内見のためにかかっていた遠方からの交通費も、無料になることで内見希望の顧客も増えるでしょう。

電話の応答を自動化するなどで、いつでもAIが電話応対ができる体制が整います。担当者が他の業務に対応中または不在時、営業時間外でもAIが応対することで、機会損失を防げるメリットもあります。

人手不足の解消

企業へのDXが推進されている理由のひとつに、少子高齢化による労働力の不足と、高齢化による世代交代があります。不動産業界でもDX導入によって人手不足の解消が期待できるでしょう。たとえば見込み顧客からの問い合わせにチャットボットを取り入れることで、AIが自動で返信してくれるため、問い合わせ対応への人員や労働時間を削減できます。

労働環境の改善

DXを推進することで、業務の効率化労働時間の削減につながります。企業や事業所、店舗で働く従業員の労働環境の改善にも貢献するでしょう。たとえば物件の査定などの経験や知識、スキルが必要な業務でも、データを連携したシステムを導入することで、経験の浅い社員でも対応でき業務の幅が広げられます。顧客の対応に追われることでの長時間労働の是正も可能です。ワークライフバランスの実現や、余裕を持って業務に取り組めることで、従業員の多様な働き方の実現や仕事へのモチベーションアップも実現できます。

新しい付加価値やビジネスモデルの創出

DXの導入の目的には、企業の競争力を高めることも含まれます。データやデジタルを導入することで、新しい付加価値やビジネスモデルの創出の機会が得られ、商品やサービス、企業の価値を高めることにもつながるでしょう。

不動産業界のDXにおける課題と対策方法

考えている3人の人物

DXを導入しITシステムやツールを利用することで、多くのメリットが得られます。一方、不動産業界にはDXの導入の障害となる多くの課題もあります。自社のDX導入のために覚えておきたい、課題と対策方法を解説します。

前例が少ない

DXの推進度は企業の規模や業界によっても異なります。不動産業界ではすでにDXの導入を成功させている企業はあるものの、企業の持つ課題や状況によって導入したDXの手法はさまざまです。まだ前例が少ないため、自社や店舗に合うDXをどう取り入れていくか、試行錯誤しながら導入を進める必要があります。

コストがかかる

DXのためにシステムやツールを導入するには、コストがかかります。さらに、コストをかけてシステムやツールを取り入れても、使いこなせなければ費用対効果は出せません。機能の多さで導入するシステムやツールを選ぶのではなく、システムの導入コストと、自社にとって必要な機能があるものを踏まえて適切なものを選ぶようにしましょう。

システムを使いこなせる人材の不足

DXのためのシステムやツールを導入しても、すべての業務を自動化してくれるわけではありません。システムを使いこなせる人がいなければDXの導入は成功できないでしょう。不動産業界でITやDXに明るい人材が少ないことも、不動産業界のDX推進のさまたげになっています。

DX推進の知識や情報、ノウハウを持った人材を確保することや、必要に応じてDXパートナー企業との提携を行うことも求められています。

セキュリティへの対応

不動産業界における取引は、宅地建物取引業法で定められた細かいルールにのっとって行われています。そのため不動産取引では宅地建物取引士の押印が必須、書面交付は紙面のみなど、法的な制約によってデジタル化できない業務も多く存在していました。一方、宅地建物取引業法施行規則の一部改正により、2022年(令和4年)5月18日より重要事項説明書等の書面の電子取引が可能となりました。

不動産業の電子取引解禁はDX推進にも追い風となりますが、不動産取引では多くの機密情報を取り扱います。DXの導入には個人情報保護やトラブル防止のためのセキュリティ対策が必要です。

アナログ文化が根強い

前述の宅地建物取引業法による制約もあり、不動産業界は紙面でのやりとりをはじめとしたアナログ業務が多い業界と言えます。また、地域密着型の小さな不動産店舗では対面での応対のみとしているところもあるでしょう。DXはただIT化を進めるだけでなく、既存システムからの脱却をはじめとした改革もふくまれています。DX導入のためには業務フローや手法の再構築も必要となるため、企業や職場の風土によっては、変革が好まれずDX推進のさまたげとなることも多いです。変革を推進する社員と、反発する社員との間で亀裂が生じてしまうかもしれません。

慣れ親しんだやり方やツールから脱却するときや、新しいやり方やツールへ移行するときには一時的なパフォーマンスの低下もやむを得ないとする、完全にデジタル化するのではなく、地域密着型などのアナログの良い部分は残しつつDXを進めるなど、自社の風土や雰囲気に合わせて柔軟に対応しながら、DXの導入を進めましょう。

不動産業界におけるDXと不動産テックの関係

家の模型とグラフや数値が並んだ紙

不動産業界におけるDXと似た言葉に「不動産テック」があります。不動産テックとは、「不動産×IT」、不動産とテクノロジーの融合を指す言葉です。不動産テック協会の定義を引用すると、「テクノロジーの力によって、不動産に関わる業界課題や従来の商習慣を変えようとする価値や仕組み」となります。

DXが自社の業務効率化や競争力の向上、古い商習慣や業務の刷新に対するデジタルでの取り組みであるのに対して、不動産テックはクラウドファンディングや不動産業者とIT業者のマッチングなど、多岐にわたるサービスや業種もふくまれるのが、DXと不動産テックの違いです。

不動産業のDX導入の種類や手法

スマホを操作している女性

DXと一口に言っても導入できるシステムやツールの種類や手法は多岐にわたります。自社の持つ課題解決や目的に合致するシステムやツール、手法を選ぶのが重要です。具体的な不動産業におけるDX導入の種類や手法を解説します。

電子契約

電子契約を導入すると、不動産に関する契約をオンライン上で締結できるようになります。不動産取引に関する契約も電子契約が解禁されたため、電子署名による契約が可能となりました。対面での捺印や署名が不要となるため、遠方の顧客や非対面非接触を希望する顧客との契約機会も得られます。契約のために従業員が遠方まで足を運ぶ、スケジューリングをするなどの時間的な制約がなくなるのもメリットです。

ウェブ会議システム

代表的なウェブ会議システムには、ZOOMやMicrosoftのTeamsなどがあります。ウェブ会議システムを導入することで、社内の会議をオンライン上でできるためリモートワークの推進につながります。さらに不動産業界では、顧客とのオンライン商談や物件のオンライン内見も可能になります。

ZOOMやMicrosoftのTeamsはすでに企業や学校などで使用経験のある顧客も多いため、ウェブ会議システムは顧客側からも受け入れやすいメリットもあります。

チャットツール

テキストによるリアルタイムのコミュニケーションが可能となるツールがチャットツールです。LINEのほか、ビジネス向けチャットツールにSlack(スラック)Chatwork(チャットワーク)があります。不動産業向けのチャットツールであるAtlicu(アトリク)もリリースされています。

チャットツールは社内でのやり取りや進捗管理に活用できるだけでなく、不動産業界では顧客とのやり取りにも活用可能です。電話が苦手、メールは使わないという顧客とのやり取りにも向いているでしょう。

不動産管理システム

賃貸管理や土地管理などの不動産業務をサポートするシステムです。GMO TECH株式会社の「GMO賃貸DX」、株式会社ダンゴネットの「賃貸名人」、株式会社いえらぶGROUPの「いえらぶCLOUD」などが代表的です。システムによって特徴や機能が異なるため、自社に適切なものを選びましょう。

チャットボット

コミュニケーションツールやウェブサイト上で機能する自動応答ロボットが、チャットボットです。顧客の問い合わせ対応やサービス提供を自動化できるため、業務の効率化のほか営業時間外の顧客の集客も期待できます。

電話自動応答サービス

不動産業界は、問い合わせをはじめ入電、受電の機会が多いです。ウェブサイトからのメールフォームやチャットツール、チャットボットなどを取り入れても、デジタルリテラシーの低いシニア層などから電話で問い合わせを受ける機会も多いでしょう。そのため電話が多く業務の手が止まってしまう、口頭でのやり取りのため内容を正確に聞き取らないといけないなどの問題が発生します。

IVRy(アイブリー)などの電話自動応答サービスを導入することで、電話業務の効率化につながります。たとえば内見予約や問い合わせなどは自動音声で対応したり、SNSで予約ページへ誘導したり、担当者とのやり取りが必要なときには直接担当者につなぐなど、電話の案内や応対がほぼ不要になります。受電メモ機能のあるサービスもあるため、電話をしながら受電内容をメモすることも可能です。データとして残せるためメモの紛失なども防げ、営業時間外での応対も可能になり、電話業務における課題解決が期待できます。

予約システム

ウェブ上でいつでもどこでも予約が取れるシステムです。不動産業においては、内見や契約、物件確認、物件の貸出などのスケジューリングが必要なケースが多くなっています。たとえば予約システムを導入することで、顧客はいつでもどこでも予約が取れるほか、予約の変更やキャンセルも可能です。予約状況もシステム上で確認できるため、空き状況の確認応対などの業務もシステムが担ってくれるでしょう。

オンライン相談や内見などのサービスを導入するときにも、顧客が相談や内見日時を予約する作業がかならず発生します。予約システムはDXのほかの手法や取り組みと併用するのも有効です。もちろん予約システム単体だけでも来店予約や対面での内見予約受付などに活用できます。

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不動産業界のDX事例

コールセンターで対応している男性

自社のDX推進のヒントにもなる、不動産業界のDX導入事例を紹介します。

長谷工コーポレーション「マンションFit」

長谷工コーポレーションは、新築分譲マンション探しをサポートするサービス「マンションFit」を提供しています。LINE上で「マンションFit」の公式アカウントを「友だち」追加して家族構成、年齢、自宅・勤務先の最寄り駅、世帯年収、現在の居住形態の5つの質問を入力して回答すると、購入者データをもとにした3つのおすすめ物件情報が見られます。興味のあるモデルルームがあれば、そのまま予約可能です。

従来必要であった、来場カードへの詳細な記入や営業担当者からの希望条件についての細々としたヒアリングなどが省略されることで、気軽にモデルルーム見学予約ができます。営業担当者のつかない、非対面方式の見学を予約することも可能です。

住まい探しやマンション購入を検討しているものの「誰に相談して、どのように準備したらいいのかわからない」「住まいの希望条件が明確になっていない」などの悩みを持つ、潜在顧客への新たなアプローチにつながっています。

住友不動産販売「ステップオークション」

ステップオークションとは、不動産の売却を希望している売主に対して住友不動産販売本社の専門部署がプロの買い取り業者(取引先宅地建物取引業者)を一括で紹介するサービスです。一般の買主のほか売主の希望や不動産の特性に応じて、取引先の宅地建物取引業者へも紹介の幅を広げます。早期かつ高値での売却やニーズの低い不動産や物件の売却を実現しています。

売却は入札制により行われ、宅地建物取引業者があらかじめ希望するエリアや物件種別などを登録する「オーダーエントリー」、さらにネット上で購入申込を受け付ける「オンライン買い付け」と、売却までの一連の作業をシステム化。一括紹介のDX推進につなげています。

アットホーム「ATBB」

アットホーム株式会社は、不動産業務総合支援サイトである「ATBB(アットビービー:at home Business Base)」を運営しています。物件情報の登録・入手・公開・管理、不動産調査などの不動産業務のフルサポートをインターネット上で受けられるのが特徴です。物件登録フォームに、物件関連資料をアップロードできる物件関連資料流通機能、「ATBB」に公開されている賃貸居住用の物件情報に基づいた初期費用・月額費用の見積書(概算費用計算書)が作成できる見積作成支援機能のほか、複数の物件種目を同時に検索できたり、毎月の支払額での検索や、地図上へのバスルート表示・バス停から物件までの徒歩分数によって検索もできたりと、新しい機能も順次追加されています。

野村不動産ソリューションズ「Musubell for 仲介」「野村の仲介+(PLUS)いえーるダンドリ」

株式会社デジタルガレージが開発した電子契約一元管理サービス「Musubell(ムスベル) for 仲介」の第一導入企業として、野村不動産ソリューションズ株式会社にシステムが提供されています。不動産売買仲介契約の電子化契約から取引完了までのステータスの一元管理など多様なニーズに対応しています。

住宅ローン手続き専用のアプリ「野村の仲介+(PLUS)いえーるダンドリ」もリリース中です。顧客と営業担当者、住宅ローンデスクの3者間でチャットを行える機能、住宅ローンの申込、借入契約、購入物件の引渡しまで一貫したスケジュール管理機能、各種手続き内容を確認するタスク管理機能などが搭載されています。手続きが煩雑で分かりにくい住宅ローンの手続きを分かりやすく整理でき、金融機関の相談をはじめ対面でしかできなかった手続きを非対面で実現しました。

三井不動産「ワークスタイリング」「バーチャル内見ツアー」

三井不動産では、法人向けサービスオフィスや多拠点型サテライトオフィスサービスに、業界や企業にしばられずワークスタイリングを通じた新たな出会い、学び、体験が実現できる会員限定サービスを提供する「ワークスタイリング」サービスを提供。場所や時間にしばられない働き方の提案につなげています。

人気の物件の内見をオンライン上でできる「バーチャル内見ツアー」も同時に公開されています。部屋の内部から共有部分まで、臨場感のある映像で内見できます。

朝日放送テレビ、エー・ビー・シー開発「ウチつく」

朝日放送テレビ株式会社とエー・ビー・シー開発株式会社の2社共同で運営する住まいのための総合メディア「Onnela(オンネラ)」から生まれたサービスが「ウチつく」です。注文住宅の購入を検討している人のために、最適な住宅メーカーの検索ができます。資料請求や見学予約もオンライン上で可能です。住宅専門アドバイザーからの予算や希望に応じた直接カウンセリングが受けられる、オンライン相談サービスも提供しています。

不動産業のDX事例から自社に最適な取り組みを学ぼう

不動産業界のDX導入のメリットや課題、具体的なDXの手法や企業のDX事例を解説しました。不動産業のDXへの取り組みの一つとして、ファーストコンタクトである予約管理を行う予約システム導入の検討がおすすめです。

不動産業での予約に関する課題解決につながる予約システムを導入すれば、顧客の対応業務や内見の予約業務などの効率化につながるだけでなく、営業時間外の予約も受け入れられます。不動産業のかかえる予約に関する悩みや問題解決につながる予約システムを導入するのも、DX推進への第一歩となるでしょう。