ホテルのオーバーブッキングに関する4つの研究事例
ノウハウ
ホテルを予約したはずが、現地に行ったらなんと宿泊を断られてしまった―海外旅行の際に、このような経験をしたことがある人は少なくないかもしれません。これは、ホテル側が客室数よりも多く予約を受け付けてしまう「オーバーブッキング」によって起こります。
海外では、ホテルのオーバーブッキングに関する学術研究が盛んにおこなわれています。実際“overbooking in hotels”でGoogle Scholarの検索をかけると4350件がヒット。タイトルを見てみるとホテル業界を含めオーバーブッキングに関してさまざまな切り口からの研究がなされていることがうかがえます。
今回は、その中からオーバーブッキングに関する研究論文を4つご紹介します。ホテルの予約は在庫の保管ができず、さらに当日の宿泊者数を正確に事前予測することができないため、オーバーブッキングを完璧に防ぐことは不可能です。
しかし、ビッグデータ解析の進歩や新しい研究手法の発展により、徐々に統計的な処理が可能になりつつあります。今回紹介する研究事例は、そうした統計学的処理をもとにした研究です。
1) Managing overbooking in hotels: A probabilistic model using Poisson distribution.
ポアソン分布という統計手法を用いた予測モデルを構築することで、最適なオーバーブッキング数を算出できるかを示した論文。
過去の宿泊客数やNo showのデータをもとに、将来的な宿泊客数をある程度正確に予測することは可能となりうるとのことです。ふらっと立ち寄った急な宿泊客を在庫部屋に采配する戦略や、どの時点で在庫部屋をディスカウントするかなどの戦略をもとに、将来の宿泊客数の予測を先鋭化させることが重要であると結論づけています。
オーバーブッキングをしないように予約調整をすると、売上が落ち込むリスクがある反面、オーバーブッキングが多すぎると宿泊客の不満の増加につながります。これまでそのあいだのバランスをとった予約調整は、ベテランのフロントマネージャーに任されてきました。
統計モデルを作り予約管理システムに応用することで、経験の浅いスタッフでも利益を最大化する予約調整ができるようになる日は近いかもしれません。
- 出典
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【著者】
Gopi Nath Vajpai
【所属】
Renaissance College of Hotel Management and Catering Technology, Ramnagar, Uttarakhand, India
【発行】
2018/4/7
2) Predicting Hotel Bookings Cancellation with a Machine Learning Classification Model.
ホテルの宿泊客に関する過去のデータを学習させることで、「キャンセルされそうな予約」を事前に見抜く機械学習システムのプロトタイプを構築し、その結果を報告した研究。
キャンセルされそうな予約を事前に予測することで正味の需要予測を算出します。また、同システムを用いた場合と用いない場合のA/Bテストをおこない、「この予約はキャンセルされそうだ」という予測に基づいた予約調整をした効果を測ることにも成功しました。
結果は良好であり、実際にそれなりの精度でキャンセルを見抜くことができる、と結論づけています。また、事前にホテル側から宿泊予定客に予約確認の連絡をとった場合、連絡を取らない場合と比較してキャンセル率が下がったことも示しました。
- 出典
- 【著者】
Nuno Antonio, Ana de Almeida, Luis Nunes
【発行】
2017/12/18
3) Optimal overbooking strategy in online hotel booking systems.
競合となるライバルホテルの値付けが顧客の購買行動に影響を与えるホテル激戦区において、オンライン予約システムに「量的オーバーブッキングモデル」を提案した論文。
筆者は「複数のホテルの部屋を予約し、キャンセル料をとられるギリギリのタイミングで最も安いホテル以外のすべてがキャンセルされてしまう予約」を、深刻な課題であると捉え、これを解決するためにオーバーブッキングを最適化するモデルを構築しました。
このモデルは、一室のキャンセルコストとオーバーブッキングによって発生するコストに関する両方の過去データをもとに、売上を最大化するような一室の料金を提案します。実際に東京の新宿にある2つのホテルでこのモデルを導入した実験をおこなったところ、価格競争の影響を組み込んだ上で、売上を最大化する適正価格が導かれたとのことです。
- 出典
- 【著者】
Taiga Saito(Graduate School of Economics, University of Tokyo)
Akihiko Takahashi(Graduate School of Economics, University of Tokyo)
Noriaki Koide(Joint Support-Center for Data Science Research, Research Organization of Information and systems)
Yu Ichifuji(Center for Information and Communication Technology, Nagasaki University)
【発行】
2018/1/16(最新版)
オーバーブッキングが発生した際、ホテルからは顧客に補償がなされます。その補償に対して、性別や会員プログラム等の「メンバーシップステータス」、滞在期間などの要因が、ホテルへの対応満足度と、そのホテルへのロイヤルティにいかなる影響を与えているかという調査をまとめた論文です。
結果としては、ホテル側の補償が不十分であると感じた顧客は、その後そのホテルに対してロイヤルティの高い顧客となる可能性は低く、男性よりも女性のほうが不満度が高くなりやすいことが判明しました。くわえて、滞在期間やメンバーシップなど、他の要因は補償への不満足に繋がりえないとのことです。
- 出典
- 【著者】
Johye Hwang (College of Hotel and Tourism Management, Kyung Hee University, Seoul, Republic of Korea)
Li Wen (Hotel & Restaurant Management Program, University of Missouri, Columbia, Missouri, USA)
【発行】
2009
海外ではホテルや飲食業において「オーバーブッキングは当たり前」という意識が持たれているようです。
「いかにオーバーブッキングを起こさないで済むか」よりも「オーバーブッキングが起こることを前提とした上での予約マネジメントや客室料金の最適化」というテーマでの研究が盛んに行われていることは、その証左とも言えるでしょう。
特に統計学のモデルやAI技術が急速的に発達しつつある今、ビッグデータ解析やディープラーニングモデルをもとにしたマネジメント最適化のための研究が進みつつあります。
訪日外国人客の増加を見込んでいる日本において、観光地などのホテルのオーバーブッキング問題も今後注目を集め始めるはず。日本でも既にAIを用いたレベニューマネジメントが一部で導入されつつあり、今後の活用に期待できそうです。