2019/11/28

カフェ業界に、事前注文システム導入が進んでいる理由とは?

2019年6月、スターバックスが「モバイルオーダー&ペイ」というサービスをリリースしました。これは来店前に専用のアプリで商品の注文・決済を完了し、お店でレジに並ばず商品を受け取れる会員限定サービスです1

カフェ業界では近年、こうした事前注文・決済サービスの導入が相次いでいます。大手喫茶店チェーン「上島珈琲店」も、2019年2月に同様のサービスを一部店舗で開始。それ以外にも大小様々なカフェが、次々と事前注文・決済に対応しています。

なぜ、このような動きが加速しているのでしょうか。事前注文・決済サービスには、どのような価値が期待されているのでしょうか。
今回は、学術論文や予約ラボが行った調査を参照しながら、この点を考えていきたいと思います。

予約ラボが考える、事前注文・決済サービスのもたらす2つの価値

まず事前注文・決済サービスが、カフェの顧客および店舗にどのような影響を及ぼし得るのか見ていきましょう。
一般的なカフェの業務は、おおよそ次のようなフローをたどると思われます。

1サービス内容は、以下より。
https://www.starbucks.co.jp/mobileorder/guide/
リリース日は、以下より。
https://www.starbucks.co.jp/press_release/pr2019-3082.php


https://www.jstage.jst.go.jp/article/jima/64/3/64_386/_pdfより)

 

事前注文・決済サービスは、このフローのうち、

以上3点に、大きく次の2つの価値をもたらすと考えられます。

 

  1. 顧客の待ち時間および商品選択・注文・支払いにかかる時間を削減・解消できる
  2. カフェの接客・注文受付・会計などの業務を効率化できる

(顧客の待ち時間および注文・会計にかかる時間の削減・解消について)
顧客はアプリで事前に商品を注文するため、店でレジに並んで注文・会計を待つ時間、そして実際の注文・会計にかかる時間が解消できます。またレジに並ぶ人が減るため、事前注文者以外の顧客の待ち時間を緩和する効果も期待できます。

またこれに付随する形で、「後ろで待つ人に気を遣って、早く注文を終わらせようと焦る必要がなくなる」といった定性的な価値も顧客に提供できると思われます2

(接客・会計などの業務の効率化について)
レジに並ぶ顧客が減るため、店員が注文・会計に対応する業務工数およびコストを減らせます。
次のようなカフェがあるとしましょう。

業務 対応時間(秒)
注文対応 21
会計対応 4.4

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jima/64/3/64_386/_pdfより)

2https://marketingnative.jp/mn15/

このとき、事前注文・決済サービスの導入によって、単純計算で顧客1人あたり25秒の工数を削減できると考えられます。
顧客が100人、500人、1,000人来店した場合の削減時間は、次のようになります。

顧客数(人) 削減時間(分)
100 42
500 208
1,000 417

(※削減時間は、小数第1位で四捨五入)

ご覧のように、顧客500人あたりで約3時間、顧客1,000人あたりで約7時間もの時間を削減できる計算になります。

事前注文・決済サービスによって、レジに並ぶ顧客がゼロあるいは少なくなった場合、注文・会計に対応していた店員を商品作成などの他業務に回すこともできるでしょう。

このように事前注文・決済サービスの導入は、とても大きな定量的・定性的な価値をカフェにもたらしてくれると考えられます。

事前注文・決済サービスで顧客のニーズを掴んだ中国のカフェ「ラッキンコーヒー」

実際に事前注文・決済サービスを導入し、これらの価値を実現して成功したカフェに、中国の「ラッキンコーヒー」があります。2017年に登場した新興カフェで、設立から2年あまりで約3,000店舗(2019年6月時点)にまで拡大しています。

その急成長を支えた要因として、回転率の向上、店舗簡素化や人件費削減によるコスト圧縮、待ち時間の緩和や商品品質向上などが挙げられています3

3ラッキンコーヒーの設立年は、以下より。
http://investor.luckincoffee.com/
店舗数は、以下より。
http://investor.luckincoffee.com/static-files/399afeb2-3d54-4cc4-8030-d3672d865a71

こうした事例からも、事前注文・決済サービスが、顧客・店舗にとって大きな価値をもたらす可能性を秘めていることが分かります。

また先行研究からも、カフェの顧客の満足度は待ち時間の影響を大きく受けることが分かっています。

*サービス受給中の期待形成を考慮した待ち時間に関する顧客満足度の解析
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jima/64/3/64_386/_article/-char/ja/

こちらの論文では、ある顧客Aの前に待機している顧客の人数および注文内容に応じて、店員が顧客Aの待ち時間を予想し、この予想時間を共有したとき顧客Aの満足度がどう変化するかシミュレーションを実施しました。
結果、顧客の待ち時間と満足度の関係について、次のようなことがわかりました。

このように待ち時間と顧客満足度は深く関係しています。

事前注文・決済サービスが緩和・解消するのは「注文・会計を待つ時間」のため、上記の「商品を待つ時間」が顧客満足度へ及ぼす影響に直接関係はしません。しかし前述のように、同サービスの導入によって需要(注文の量とタイミング)に応じた供給(商品の作成)が可能となるため、顧客の「商品を待つ時間」を緩和・解消することができます。

なぜ事前注文+デリバリーでなく、事前注文・決済+店頭受け取りを導入するのか

ここで疑問なのが、なぜ事前注文・決済サービスを導入したカフェでは、デリバリーではなく商品を店頭で受け渡ししているのか、という点です。スターバックス、上島珈琲店、ラッキンコーヒー、いずれも商品はテイクアウトです。

たとえば、飲食チェーン店の中には、コーヒーのデリバリーサービスを提供しているお店があります4。これは電話やwebサイトの注文フォームから商品を注文すると、所定の時間・場所に届けてくれるサービスです。
デリバリーなら、顧客は来店する必要がありません。また事前に注文を受けられるので、店舗は在庫のコントロールがやりやすくなります。注文受付・接客・会計業務は、電話や店頭で対応しているカフェが多いですが、これをネット注文に切り替えれば、効率化できると考えられます。

このように事前注文+デリバリーサービスでも、事前注文・決済サービスと同様のメリットが得られます。ですが、スターバックスや上島珈琲などは、店頭で受け取るスタイルの事前注文・決済サービスを新たに導入しました。なぜでしょうか。

ひとつの理由として、2つのサービスが想定する顧客のニーズの違いが考えられます。

事前注文+デリバリーは、店員が指定した場所までドリンクやフードを運んでくれるため、来店の必要がありません。そのため「仕事が忙しくて、お店に受け取りにいくのが手間」などの悩みを解消する位置づけのサービスといえます。

一方、事前注文+店舗受取の場合、「仕事の昼休みに寄りたいけど、レジ待ちの時間が長くて休憩時間が減ってしまう……」といった悩みを解消できそうです。

以上を踏まえると、顧客は利用シーンに応じてサービスを使い分ける様子が浮かんできます(基本は店頭で購入、会社でまとめて購入するときはデリバリーなど)。多くのカフェがデリバリーに加えて事前注文・決済+店頭受取を導入しているのも、こうしたニーズの違いを感じ取っているからだと思われます。

店舗と顧客、双方に価値を提供する事前注文・決済サービス

以上のように、カフェは事前注文・決済サービスの導入によって、業務効率化やレジに並ぶ人たちの待ち時間の緩和・解消などが期待できると考えられます。特に待ち時間は、長いと顧客の満足度が低下する要因となるため、同サービスの導入によって低下防止が見込めるのは、カフェにとって大きなメリットになるでしょう。

また上記以外にも、たとえば在庫のコントロールがやりやすくなるといった価値も考えられます。大量注文が入った場合、店頭でいきなり言われては、抽出済みのコーヒーの量(在庫)が足りずに、対応に時間がかかるといった事態が想定されます。
事前に大量注文を把握できれば、あらかじめ大量のコーヒーを抽出しておくなど、事前に備えておくことができるため、注文者および他の顧客を待たせてしまう=顧客満足度が低下するリスクを抑えられます。

さらに、業務効率化によって浮いたコストぶんをサービス向上に当て、顧客に還元することも可能でしょう。

4一例として、セガフレードのデリバリーサービスについて
https://www.segafredo.jp/delivery_service/

このように事前注文・決済は、店舗そして顧客双方に対して多くの価値を提供してくれる可能性を秘めたサービスだと考えられます。

予約ラボでは引き続き、事前注文・決済サービスのもたらす価値について調査を進めてまいります。

 

 

著者:予約ラボ編集部

予約ラボでは、共同研究や予約に関する調査を行っています。

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