越えるべき壁は「言語」だけじゃない―3つの専門分野から見るインバウンドの最先端事情とは?

2018年6月、日本では民泊の法整備が進み、訪日旅行者の注目を集めています。さらに、2019年にはラグビーワールドカップ、2020年には東京オリンピックの開催も決まったいま、日本ではかつてないほどインバウンド消費への注目が高まっていると言えるでしょう。

そんなインバウンドの現場の最先端では、一体何が起こっているのでしょうか?最新の現場事情を追うべく、インバウンドにゆかりのある各業界から3名の登壇者が集い、2018年6月7日トークイベント『”多言語・訪日・予約”のプロが語る!インバウンドとコト消費の傾向と実態』が開催されました。

イベントは名刺交換会からスタート。最初は緊張気味だった参加者の皆さんも、徐々に打ち解けて和やかなムードに。

登壇したのは、企業のインバウンド担当者や訪日マーケティング担当者向けに日々情報を発信する「訪日ラボ」のインバウンド研究室室長を務める田熊力也氏。Webサイトの多言語化サービスを展開する「WOVN.io」COO上森久之氏(@hisayuki_uemori)。そして、株式会社リザーブリンクが運営する「予約ラボ」所長、星野陽介(@HoshinoYohsuke)の3名です。

モデレーターをプロインタビュアーの伊藤秋廣氏(@AIP_ito)が務め、トークイベントがスタートしました。

多言語化≠翻訳。言語に応じたWebページ作りとは?

訪日ラボインバウンド研究室室長の田熊氏。大手家電量販店でインバウンド部署を立ち上げ、その後も広告やプロモーションを中心にインバウンドの第一線で活躍する。

——まず、本日お集まりいただいた登壇者の皆さんに、最新の情報を交えつつそれぞれの事業や専門領域についてお話しいただきましょう。Mr.インバウンドこと田熊さんから、お願いします。

田熊氏(以下、敬称略):ご紹介ありがとうございます(笑)私は、日本のインバウンドビジネスを活性化させる目的で訪日ラボというメディアを運営しています。インバウンドや訪日外国人に関して日々起こっているニュースをわかりやく紐解いて、BtoBで発信するのが主な役目です。

最近は「モノ消費からコト消費へ」と言われていますが、実はモノ消費自体も増えつつあります。コト消費はインバウンド消費の在り方が多様化した結果のひとつ。訪日外国人と一口に言っても、実際どんな人たちが来ているのかという点にも触れながら、話をしていきたいです。

——アジア圏、欧米圏というざっくりした分け方でなく、より個をみてインバウンド需要のニーズを捉えることが必要なんですね。まさにその辺りはWebの多言語化を専門とされている上森さんの領域に近いのではないでしょうか?

上森氏(以下、敬称略):そうですね。我々の展開するWOVN(ウォーブン)は、Webサイトを多言語化するためのサービスです。従来は外国人向けにWebサイトを作ろうとすると、日本語のページの他に英語や中国語のページを独立して作らなくてはなりませんでした。そうなると予算が3倍、4倍とかかってしまいます。WOVNを使えば、ベースとなる日本語のサイトを用意するだけで多言語対応が可能になります。

——やはり外国人の方にとって日本に来るときのハードルとして「言語の壁」は大きいですよね。

WOVN.ioのCOO上森氏。WOVNには、訪日外国人向けにホームページの多言語化の依頼が増えているという。

上森:そうですね。多言語化は単純な翻訳のみならず、その言語を使う人が見やすいUIを作るところまでを担います。たとえばアラビア語の場合は右から左に読むし、タイ語は改行の箇所によって意味が変わってしまうこともある。そういった部分に配慮したサイト作りをすることも多言語化の重要なポイントのひとつです。

——単純に言葉を翻訳するだけでなく、文化や習慣なども含めて考えなくてはならないのですね。とは言え、やはり外国人にとって日本で予約をするとなると壁になるのは言語。特に電話で日本語でのやりとりができない人にとって、ネット予約は欠かせないはずです。ここで星野さんに伺いたいのですが、ネット予約という文化は日本でどれくらい浸透しているのでしょうか?

星野:数年前と比べて、ネット予約そのものは日本において確実に浸透してきていると感じます。スマートフォンの普及や、ホットペッパービューティーなどの有名人を起用したCMなどによるところが大きいですね。旅行の領域でも、インターネット上で予約取引を行う楽天トラベルやじゃらんのようなOTA(オンライントラベルエージェント)がどんどん発達している。

——訪日外国人にとって予約は必須という認識なのでしょうか?

星野:内容によると思います。たとえば、雲海テラスで有名な星野リゾートトマムでは、宿泊予約をしてそのまま川下りのアクティビティを予約して楽しむ、といった流れがメインストリーム。コト消費が進みつつあるなかで、アクティビティの予約は浸透しつつあるかな、と。

田熊:訪日外国人は、日本でのアクティビティを各々の国のサイトの紹介経由で知るんです。現状では日本に来る前にある程度決めてくる、というのが主流ですね。

今年と来年の鍵は、中国からの個人旅行客

予約ラボ所長の星野。ネット予約が爆発的に普及する昨今、「言葉の壁」を超えるべくネット予約を利用してもらうかがインバウンド消費の鍵と考える。

 

——たとえば中国からの旅行客はアクティビティが含まれた団体旅行のパッケージツアーを利用される方が多いと思うのですが、個人旅行はどうなんでしょうか?

田熊:実はここ最近、 中国人の個人旅行客は爆発的に増えています。というのも、中国で個人ビザの取得が簡単になり、年収が低い人でも個人旅行をしやすくなったんです。今年か来年あたりには、中国からの個人旅行客数は、台湾からの個人旅行客数を超すのではないかと言われています。

——となると、個人旅行客が日本のことを自分で調べて訪日するようになるわけですから、Webでの情報発信がますます重要になりますね。

星野:その点、WOVNさんの提供するサービスは、タグをひとつ挿れるだけでブラウザ上での言語が切り替わるところが単純な機械翻訳と違って素晴らしいなと思います。多言語で予約システムを構築したときに実際に経験した話なのですが、Google翻訳で、日本語を中国語に直そうとすると、日本語から英語への変換を経由して、英語から中国語に翻訳される仕組みになっており、だいぶ本来の意味からずれてしまっていました。そうなると、無形商材であるサービスの内容やオプションがきちんと伝えられるかというと、かなり難しいという状況です。

上森:機械翻訳を行なっているWebページも多いのですが、日本語のサイトをそのまま訳してしまうと、一部分だけ言葉を直したくても直せないことがあります。機械翻訳はブラウザの表示を変えるだけなので、検索にヒットせず集客効果がない、といった問題もあります。さらに中国ではグーグルの閲覧が規制されている。日本で中国語に翻訳できたとしても、現地ではそれが表示されない、といった問題も起こります。

田熊:Webページが日本語にしか対応していないとまず見つけることができないですし、訪日外国人の多くは口コミサイトや、友人の口コミ経由で観光地を訪れる。オンラインとオフラインの両方で発信されるため、多言語化されたWebページは今や必須ですよね。

——個人が情報に触れる機会が多様化するなかで、サービスの提供側や事業主が個別に訪日外国人をターゲットとして情報発信をするのは、ハードルが高いんじゃないか、とも感じます。

星野:インバウンドを狙った施策というよりも、事業課題の解決を試みた結果それがインバウンド需要にも応えられた、という事例を知っています。羽田空港の近くにある京急の平和島駅に、普段は地元の方々が行くような天然温泉平和島という温泉施設があるんです。地元の人たちは来る時間が決まっているため、それ以外の時間帯はガラガラ。そこで空港と直通のシャトルバスを走らせて、早朝出発や深夜到着の旅行客を受け入れるようにしたらそれが大当たり。今では海外の空港ともタイアップして、稼働率をグッと上げているそうです。

——それは興味深い。自社の強みがどのような形でインバウンド需要にフィットするかを考えることで、新しいビジネスチャンスに繋がった例ですね。

「その国らしさ」と「日本らしさ」を融合させたWebサイトづくりを

——この辺りでちょっと、会場にお越しの方からもご質問やお声をいただこうと思います。何かご質問がある方、ぜひお願いします。

参加者:Webサイトでの旅行客へのアプローチについて質問させてください。ある観光施設がWebサイトを作って訪日外国人を呼び込みたい場合、特に気をつけるべき点や、配慮すべき点などはありますか?

上森:集客が目的であれば、やはりその国の言語で書かれた外国人専用Webページを作るのが一番ですね。あとは、国ごとによってサイトのデザインを変えることも大切です。たとえばタイの人はお花畑がとても好きと言われています。その観光施設が花の名所なら、一面がお花畑になっているような写真をTOPに持ってくるとか。他にも、アジアや欧米など、その国からの旅行者がどのような情報を必要とするかを個別で調整する必要があると思います。

田熊:サイトに「日本らしさ」が表れていることのほうが大切、というケースもありますよね。海外のサイトの流行を取り入れつつバランスを保てると良いんじゃないかな、と思います。

参加者:他にも、たとえば地方の小さな神社や寺社仏閣のような知名度の低いところが外国人の集客をしたい場合は、どうしたら良いと思いますか?

上森:団体客の囲い込みがキーだと思います。銀座の大型家電量販店で中国人の爆買いがあったのも、BtoBの力が裏側ではたらいていて、バスがお店の前に停まるようなツアーを組んだからああいうことが起こったそうです。そう考えると、たとえばアジアからの外国人観光客を増やしたいのであれば、その寺社仏閣がアジアの旅行代理店に営業に行くなどできると良いのではと思います。

インバウンドへの仕掛けは、「できる限りの手を尽くすこと」

——最後に、今後のインバウンド需要の動向やその対策について、お一人ずつご自身の事業と絡めた上でコメントをいただければと思います。星野さんから順番にお願いできますか?

星野:はい。今後インバウンド消費を活性化させるにあたって、日本語が話せない外国人のニーズに対応するためにも、ネット予約は積極的に活用されていくと思います。そのなかでの課題は、事業者側がITを活用しきれていないこと。事業者は予約システム上に在庫を登録しなくてはならないけれど、特に地方のアクティビティ催行会社などでは、まだまだITが浸透していない現状があります。。ここをなんとかして解決していきたいですね。集客に対して事業主がどれくらい積極的になれるかどうかが鍵だと思います。

上森:政府が観光立国を掲げたことで、いま日本の大企業がインバウンド需要に応えるために動きつつあると感じています。企業が2019年、2020年にどんなことをして何人の観光客を呼び込む、というマイルストーンを立てて予算を獲得している最中で、いまは非常に投資が活発になっています。そうしたプロジェクトには数千万円単位のお金がかかることが多いのですが、Webの多言語化に関してはその10分の1の値段でできます。ぜひそこにも積極的に目を向けてほしいな、と思います。

田熊:日本は今後特に地方部でますます人口が減っていき、数十年後には外国人と生活をする未来が当たり前になっていると思います。その未来を前にして、彼らをどう受け入れるが大きな課題です。訪日外国人とどう接するかは、その課題を乗り越えるための第一歩だと思います。

言語や社会事情などの話も出ましたが、日本は島国なので、海外から観光客を呼び込むための動線を設計する必要もあります。人、言語、動線、どれかひとつを整えるのではなく、包括的にやれるだけの施策を行うことが大切です。

——ありがとうございました。「インバウンド」というざっくりした言葉から、具体的なイメージが少し掴めたように思います。登壇者の皆様、本日は本当にありがとうございました。

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予約ラボ編集部

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