世界のサイトを母国語で。WOVN.ioの「ミニマル」で「オープン」な野望とは。
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WOVN.ioは、たった1行のコードを埋め込むだけで、サイトを多言語化できてしまうウェブサービス。昨今の海外からの観光客(インバウンド)増、2020年の東京五輪という時流もあり、企業からの問合せが絶えないという。今回は、そんな世界への可能性を秘めたクラウドサービスを開発・提供する株式会社ミニマル・テクノロジーズ創業者の林鷹治さんとジェフ・サンドフォードさんに、WEBサイトの「インターナショナライゼーション」「ローカライゼーション」について予約ラボの星野がお話を伺ってきました。サービスのルーツに触れるエピソード、オープン化、「多言語」という枠に収まらない彼らの野望の一端をご高覧いただければと思います。
目次
WOVNってどういう意味なんですか?
星野いきなりなのですが、WOVNの発音って、ウォーブンで合っていますか? ついつい意味性を持たせたくなってしまうのですが。。
林さんウォーブンでOKです。いちおう、WOVNって、eを付けるとwovenになって、「縫う」「織る」という意味になります。でも、最終的には音ですよね。音がいいなって。
ジェフさんウェブサイトの中に、織って入っていく、編まれていくような。
星野急にイメージしやすくなりました!
林さん本当ですか!?
星野はい、、予約ラボの編集メンバーでも結構「う、うぉ?うーぶん?」って(笑)ちょっと、音をごまかしながら。。
林さんよく言われます(笑) ただ、、前から話してたのは、OSのLinuxの正式名称が決まったのって、Linuxができてすごい経ってからなんですよ。Linuxも人によって読み方が違う状態がしばらく続いてて。後に、Linuxをつくったリーナスって人がテープに吹き込んだところを公開したんです。「リナックス」って発音しますっていうのを。それ、やりたいねっていう話ししてたんですよね。で、いろいろラテン語調べたり、「VERB」とかいろいろ候補を出したんですけど、最終的にはWOVNが見た目的にもすっきりしているし、いい感じだなと。それから、ユニバーサルデザインな名前にしたかったっていうのはあります。
どうして多言語化サービスだったのですか?
星野WOVN誕生のきっかけはWEBサイトのA/Bテストができるオプティマイズリーだったんですよね?
林さんそうです。
星野林さんがぴんときた背景には、別の記事で語られていた、あの任天堂の横井軍平さんの「枯れた技術の水平思考」があるのでしょうか?
林さんそうですね。好きな概念ですね。
星野水平思考の観点で、いくつかトライした中でのWOVNだったのでしょうか?
林さんはい。結構、新しもの好きではあるので、割とAPIが出るたびにいろいろやるんですけど、ビジネスになりそうだなって思ったものは今まで全然なかったんです。もともとこのWOVN自体もビジネスになるって思ってたわけではあんまりなくて、Tumblr(タンブラー)とかで使えるようなブログパーツみたいなものでした。
星野どこかのタイミングで、これはいけるんじゃないかと。
林さんそうですね。それと、誰もやってなくて面白いなって思ったのに加えて、出してみたら、個人じゃなくて、法人、ビジネスの人から問い合わせが来たっていうのはやっぱり一番大きいです。
会ったのは、一緒にやるって決まってから。
星野ジェフさんとは、その頃から一緒に?
林さんそうですね。ローンチしたときにはいましたね。
星野ジェフさんとのコンビは、まさに御社の多言語化サービスにマッチするイメージですが、どのようにしてお知り合いに?
林さん紹介ですね。コンピューターサイエンスをやっていた人、もしくはデザインやっていた人、誰か知らないですかっていうように話をしていて。もともとローカライズサービスをつくろうと思ったんで、「英語圏とか、英語のネイティブの人がいたほうがどう考えてもいいよな」って言っていて。
星野それからお会いされた?
ジェフさん会う前にSkypeで2、3回ぐらい話しました。
林さん一緒にやるって決まってから、初めて会いました。恵比寿駅で待ち合わせして。
星野ジェフさんは、それまで日本にいらっしゃったこともあったんですよね?
ジェフさんはい、英会話のコーチみたいなことを2年ぐらいやっていました。
あとは、ウェブサイトをつくったり。友達がデザインやってたので、僕は裏側の仕組みのほうを手伝ったり。
なんでもミニマルにしたい。
星野林さんとジェフさんとの間で、方向性だったり、こだわっている部分が違ったりすることってあるんですか?
林さん時々あります。僕は起業してからビジネスサイドのほうになるんですけど、ジェフは製品担当なので、つくるほうの比重が大きくなります。僕はビジネスの比重が大きくなると、やっぱりどうしても値段感とか、あとサインアップのフォームで、入力する項目の個数とか。。
ジェフさんできるだけなんでもミニマルにしたいです。
星野お立場の違いで、多少のミニマル感の入れどころの違いがあったり。
林さんとはいえ、今のところ、うまいことバランスよくはできてるんじゃないかなとは思います。
ジェフさんSkypeで話したときに、僕のアパートががらんとしているので、「ミニマルですね」って言われて、意味分かってるなと思って。ミニマルが好きだから、そういう会社をつくりたくなりますよね。逆にいえば、ミニマルじゃない会社で働けない。絶対。だから、「ミニマルが好き」って言われたから、良かったと思いました。
日本刀は、キレイだから切れる。
星野ジェフさんから「なんでもミニマルにしたい」との発言がありましたが、WOVNのサイト、管理画面もすごくシンプルなつくりです。こういうサービスにしよう!という考え方は、メンバーにどう伝えていらっしゃるのですか?
林さん割と言葉で伝えることが多いかなと思うんですけど、会社の価値観みたいなものの1つに「機能美を追求する」っていうのがあって。機能美って「妥協せずに品質が高いからこそ、きれい」という考え方だと思っています。
星野Appleのような?
林さんそうですね。あるいは日本刀ですね。「きれいだから切れる」みたいな。とか、そういうところにすごい2人ともいいよねっていう話をよくしていました。ソフトウエアも使っている感覚がないというか、UIがそもそもないものが多分、究極ですね。「No UI」あるいは「UI death」とかって言うんですけど、それこそ一回ぼんって導入してしまったら、あとは使ってる感覚なしに使ってるようなものをつくりたいなっていうのはずっと思っています。
全てを排除することで、アサガオ1本の美しさが際立つ。
星野早速、日本刀の例をいただきましたが、個人的に「ミニマル」からまず連想されるのが、禅思想でした。
林さんはい、好きです。例えば、この弊社のロゴ。これってちょっと分かりづらいんですけど、ミニマルテクノロージズ(MINIMAL TECHNOLOGIES)のMとTでできているんです。
林さんこれ、モチーフがアサガオなんですよ。
ジェフさんあんまりアサガオに見えないよね(笑)
林さんちょっと分かりづらいんですけど、アサガオを上から見た感じですね。
少し話が飛ぶんですけど、千利休がすごい好きで。ジェフ、ごめん。僕ばっかりしゃべって。
ジェフさんいいよ!いい話だと思う。
林さんあのお茶で有名な千利休に、秀吉が「豪華絢爛な、超いけてる茶室をつくってくれ!」ってオーダーを出すと、利休は「分かりました。じゃあ明日、何時に来てください」って言って。その茶室にはすごい大きい庭があって、もともとアサガオがばぁーっていっぱい生えてたんですけど、千利休が何したかっていうと、1本だけアサガオを残して、全部取っちゃったんですよ。茶室の中のものも全部取ってしまった。秀吉って金ぴかで豪華なものが好きだったんで「何だこれは」「何をふざけてるのか」みたいな感じで言うんですけど、千利休は「いや、全てを排除することによって、このアサガオ1本の美しさが際立つんですよ」って言って、秀吉が「なるほど、おまえ、やっぱ超いけてるわ」ってなったっていうエピソードがすごい好きで。
林さんそれで、アサガオをモチーフにして、ミニマルって名前を付けたっていう。こういう無駄なものをそぎ落とすっていう象徴が、僕の中ではアサガオだったっていう感じですかね。ロゴの色もカラーコードもアサガオなんです。
ジェフさんちょっと、アサガオに見えないんだけどね。
林さんもう何回言うのそれ(笑)
ハンターハンターの幻影旅団みたいな会社にしたい。
星野林さんの会社づくり、チームづくりにも「ミニマル」な考え方があるように思うのですがいかがでしょうか。
林さんちょっと恥ずかしいんですけど、『HUNTER×HUNTER』がすごい好きで。
幻影旅団っていう、すごいやばいグループがあるんですけど、そこは13人ぐらいなんですよ。だから、スペシャリスト集団みたいな感じをイメージしていて、有象無象に人を集めるんじゃなくて、何らかの分野の専門家が集まって、少人数の会社にしたいとって思ってます。
星野林さんはクロロ(幻影旅団のリーダー)なんですね。
林さん立場上、そうなりますね(笑)僕は信長っていうキャラのほうが好きなんですけど。
星野まさに日本刀、持って。
ジェフのお母さんは、言葉のミニマリスト!?
星野ジェフさんは、小さい頃からミニマリストだったんですか?
ジェフさんコレクションをしなくて。そういうものが何かあると、ちょっと嫌ですね。僕は。
星野ご両親がミニマリストだったわけではない?
ジェフさんそういうことはないと思いますね。
林さんでもジェフのお母さん、子どもの本書いているよね。
星野絵本ですか?
ジェフさん絵本じゃなくて、11歳とかぐらいの子ども向けの小説を書いてますね。
林さん僕らのサイトの一番最初に出てくるタッグラインに「Welcome the world in one line of code.」っていうのがあるんですけど、これ、ジェフのお母さんが考えたんですよ。
ジェフさんそういうのだったら、絶対、お母さんに聞いています。なんでかっていうと、お母さんは子どもの本を書くとき、簡単に言わないといけないので。
林さん誰にでも分かる英語。シンプルな英語っていうので。
ジェフさん例えば僕の友達はめっちゃ小説を書くのがうまいんですけど、それ、一応聞いたら、全然シンプルにしないんですよ。英語しゃべれないと全然分かんないところがあったので、お母さんに必ず聞きます。
林さんよく日本語で僕がいろんなワードを作って、ジェフにこれ、ちょっと英語だと何ていうのかな、何ていうふうにしたらいいかなって相談するんですけど、そのままお母さんに相談していました(笑)
星野ジェフママは言葉のミニマリストなんですね。
林さんはい、過言ではないんで。英語のワーディング、ライティングが。
翻訳サービスではなくて、多言語化サービス。
星野予約ラボ内でもWOVNの説明をするのに、少し苦労したんです。翻訳サービスじゃなくて、多言語化対応サービスなんだっていうのがなかなか伝わらず、、
林さんだいぶ通じないです。ほとんど通じないですね。
星野先日、WOVNを導入させていただいた予約ラボの川越の記事を見せたら「いや、なんか英語、違うじゃないか」なんて言われて。いや、それ、自動翻訳のままなので、、、それは違うんですっていう話をして。それこそ誰に何を伝えたいのかで、場合によってはジェフママに翻訳をお願いしたりするわけですよね。WOVNが面白いなと思ったのは、コンテンツの発信者側が、自分自身で、伝えたい人に対して、伝えたい言語で言い換えられるっていうところなんじゃないかなと。
林さんありがとうございます。
星野Google翻訳だと、発信者が意図せず勝手に変換されてしまいます。しかも、日本語から中国語に訳すときなんかは、いったん日本語から英語に変換されたあとに中国語になるので、出てくる結果がぐっちゃぐちゃだったりします。これがWOVNだと、たった1行のコードで、技術者でない私でも、GoogleAnalyticsと同じ要領で設定できて、サイトをあっという間に多言語対応させてしまう。驚きでした。
動的なサイトを多言語化するツールが世の中にない理由がわかった。
星野これって、ユーザからは簡単そうに見えますが、つくる側としては簡単なことではないんですよね・・?
林さんそうですね。。例えば、去年の夏までは静的なサイトにしか対応してなかったんですよ。なのでそれまでは、予約であったり、決済や、ログインを行うような動的なサイトで使えなかったんですよね。それからかなり不具合が続いていて、ユーザの皆さんには、本当にご迷惑をお掛けしました。なかなかしんどい時期でしたね。
星野ユーザにはそこのご苦労が見えにくいものですが、ひと山あったんですね。
林さんいや、本当に、予約をとるような動的なサイトを多言語化するツールが世の中になかった状態で、ない理由が作ってみて分かったっていうか。すごい大変でした(笑)
どう大変だったかっていうと、まずこのウィジェットがサイト全体を常に監視してるんですよ。日本訳の部分を発見したら、そのサーバーにアップロードして、アラート依頼を出して、それをがちゃがちゃっと翻訳して、また反映させるっていうことをやってるんですけど。まずここが割と難しかったです。
あと、もう1個は、僕らのクライアントって日本にサーバーがある場合も多いんですけど、アメリカから読まれた場合の翻訳文、日本から配信してたら、時間が遅延しちゃうので、それはアメリカから配信するんです。読んでる人に近い所のサーバーから配信するっていう、これ、CDNっていう仕組みなんですけど、これを使っていて、動的にごにょごにょ常に変わるものを、CDNに乗せるっていう作業に、すごい時間取られましたね。
ジェフさんあとはアクセスが大きいタイプへの対応ですよね。最初は、法人向けにつくっていなかったので、、
林さん100万pvあるような大きいサイトで導入されると、その瞬間から僕らにもそのpvが来るんで、そういう負荷対策も。さらに、その100万pvが動的に動いてたりすると、えらいデータベースの書き込みとかが発生して大変でした。去年の秋ですが、社内的には、本当に暗黒期って呼んでます(笑)
オープン化して、WOVNを組み込めるようにしたい。
星野WOVNは、スクリプトさえ貼り付ければ、誰でもまずは無料ですぐに使えるという一方で、どちらかというと開発者向けに、どんどんオープン化されて、APIを公開されていくとか?
林さんそうですね。オープン化は、やっぱり開発者に使ってもらうためには必須で、まだ僕らも全然足りてないんですけど、本当にWOVN自体を、皆さんの自社サービスにがちゃって組み込めるようにしたいなと思ってるんですよ。
ジェフさんインターネットの世界にはいろんな仕組みとか、やり方がいっぱいありますよね。それ、できる限り対応できるAPIをつくりたいと思っています。
星野そうすると、Eコマースやカートのシステム、予約サイトなんかにあるような、「注文を受け付けました」とか「予約が完了しました」といった、自動配信メールも多言語化の可能性がある?
林さんはい。お約束できるものでもなんでもないんですけど、今(2016年夏)の段階としては取りあえずつくって、フィードバックを社内でぱーって集めて、直すのを待ってるような感じです。頑張って出します。
日本語とアラビア語では「はい」「いいえ」の位置が逆。
星野いわゆるインターナショナライゼーションの範囲っていうのは、言語の部分のみに特化していくのですか?
林さんいえ、レイアウトとかにも踏み込んでいきます。どちらかというと、カルチャライズみたいな感じです。その地域、文化によっても、ボタンの配置って違うんです。例えば、日本語を使う我々からすると「はい」ボタンが右側で、「いいえ」ボタンが左側だと思うんですよ。これってアラビア語だと「はい」が左側で、「いいえ」が右側だったりするんです。だから、そういうのにも本当は対応したいと考えていますね。
星野確かに、、ただ言語を切り替えればいいという問題ではないと。あと、これはローカライゼーションっていうのかもしれないですけど、時差、通貨とか。
林さんそうですね。ローカライゼーションですよね。やりたいですよね。可能だと思いますが、今はまだ全然、できてないんですけど、やりたいですね。
ジェフさんそうですね。やりたいですね。
林さん地味に住所とか難しいんですよね。
ジェフさん住所、難しいですね。あと日付の書き方とか、通貨、難しいですね。
林さんでも、通貨はある程度、レートだけ出せばいいわけ。そこが難しいだけなんですよね。
ジェフさんそうですね。
林さん住所とかは、本当、アラビア語だと順番どうなってんのみたいな。その辺がまた難しいですね。
あとは、結構、マーケティングツールみたいなことも、していきたいなと思ってるんですよね。グローバル・マーケティング・プラットフォームではないですけど、この国ではこういうコンテンツがこういうふうに読まれてるとかっていうのが調べられたり、どういうのが受けるものなのかっていう仕組みをつくりたいなって思ってます。
星野多言語化の部分の次は、翻訳機能を強化されるというよりも、カルチャライズや、マーケティングという流れですね。
林さん翻訳、そうですね。機械学習は、やってはいるんですが、正しい翻訳を作るっていうのは、機械学習分野のノーベル賞が3桁足りないっていわれてるぐらい、遠いんですね。できる限界っていうのは、正しい翻訳を出すことはできないけど、どこが間違ってるかっていうのは出すことはできる。なんで、そういう、人がより直しやすい、完璧な翻訳はできないけど、より修正しやすいツールに特化していくっていう考えは持ってます。あとは翻訳って一概で言っても、意味を変えるだけじゃなくて、より効果が出る翻訳ってのがあると思っていて。例えば購入っていうボタンって、purchaseにするのか、 別にするのか、あるいはカートのレイアウト自体も変わってくると思うんですよ。
WOVNは、ウェブサイトのそういうデータを取ることは可能で。そのデータを基にして翻訳を改善っていうわけじゃないんですけど、ライティングに近いようなことも、それを意味だけじゃなくて、その効果とかもきちんと取れるようにしたいっていうのも思ってます。ここに関しては、一応、国際特許なんかも幾つか申請していたりします。
星野ただ翻訳すればいいっていうわけではないですからね。「予約する」っていうボタンも「BOOK NOW」なのか「RESERVE」なのか、配置はどうするんだとか、慣習や文化によって変わってきそうです。
林さんはい、ジェフがそういうWOVNの可能性とかを、いっぱい考えてくれてるんです。
ジェフさんまだまだなのですが、まずは、があーっとサービスを立ち上げてつくって、それを使ってもらえたら、うれしいなと思ってます。全然違いますけど、Twitterみたいに流行っているサービスにしたいですね。それが、社会の環境を変えるとかっていうことを考えています。(終)
東京都南麻布に拠点を置く株式会社ミニマル・テクノロジーズは、「世界中のすべてのWebサイトをすべての人の母国語で」という信念のもと、最短5分でWebサービスの多言語化(27ヶ国語)を可能にするツールWOVN.ioを提供。Eコマースサイト、予約サイト、製品・サービス・コーポレートサイトを多言語化したい事業者様に必要なのは、コンテンツの翻訳を行い、1行のコードをサイトに埋め込むだけです。
写真:吉井一貴
編集:星野陽介