自然と延泊・リピートしてしまう「マスヤゲストハウス」の秘密とは!?
体験
INDEX
こんにちは、西村拓也と申します。現在、フリーランスで地域のコーディネーター、メディアの立上げ、川越でゲストハウスの立上げ等をやっております。
長野県諏訪郡下諏訪町(すわぐんしもすわまち)にある素敵なゲストハウス、マスヤゲストハウス。(以下、 マスヤ) 僕は約1ヶ月という短い期間ではありますが、マスヤで住み込みのお手伝いとしてお世話になっておりました。
マスヤの良さや特徴はそれこそファンの数だけありそうですが、その一つはゲストとスタッフの距離が適度に近いことだと思います。共有スペースに自然と人が集まって来て、心地よい空間を一緒に楽しむことができます。
もう一つは、OTA(Online Travel Agency)と呼ばれるweb上の集客システムを使っておらず、自社サイトのみ、日本人が9割以上、リピーターが半分以上を占めるというところだと思います。これは昨今のOTAに頼った宿泊施設の状況からすると異質です。メディアの紹介によるところもありますが、一度泊まったゲストに愛されること、そして、そういった方々が自分の周りのいる人に自信を持って勧めているという背景があるように思います。そうしたくなってしまう宿です。その一端をご紹介できればと思います。
目次
歴史・温泉・クラフト。魅力いっぱいの下諏訪町!
下諏訪町は諏訪湖の北部にあたり、諏訪大社の下社、下諏訪温泉などがあります。江戸時代には中山道と甲州街道の分岐点であり交通の要所で宿場町として栄えました。また、古くは黒曜石の産地であり、縄文、弥生時代の頃から重要な拠点であることがわかっています。 現在は日本電産をはじめとした精密機械等の産業、文化や温泉を基盤とした観光、住みやすい環境や木工等のクラフトが盛んだった文脈から個人店、アーティスト等の移住も盛んです。七年に一回の御柱祭も有名で全国各地から150万人以上の観衆が訪れます。
ゲストに愛され続ける「マスヤ」が提供する時間とは?
街の入り口としての機能をとても大事にしているマスヤ。 16時から始まるチェックインがその特徴を現しています。ゲストは宿に訪れると、まずは吹き抜けの広々としたリビングにおいてチェックインを行います。チェックインシートに氏名・年齢・住所等を記入したのち、スタッフからマスヤの説明を受け、館内案内を経て、各々のベッドへと丁寧に案内されます。 荷物を降ろし、ベッドメイキングを済ませたゲストは街のことや宿のこと、今日のゲストのことなど、旅にまつわる様々な情報を得にリビングへ。スタッフが「街の説明を致しますので落ち着いたらリビングへ来てください」と声かけているのもあるのですが、何か引き寄せられるような感覚があります。地図を広げて、お話をしながら、ゲストの到着時間、曜日、出発時間、目的、今夜の他のゲストのことなどを考慮して、温泉のこと、お店やおすすめスポット、夕食、朝食等必要な情報の提供と提案をしていきます。その後は1人だったり、その場に居合わせた他のゲストと共にだったり、思い思いのスタイルで旅を楽しんでいきます。チェックインが16時以降ということもあり、軽く散策して、マスヤのお風呂セットを片手に温泉巡り(徒歩10分圏内に5つの銭湯があります。もちろん天然温泉!)や数ある食事処から気分にあったお店で夕食という方が多いです。
19時から始まるbarタイム。夜が更けるにつれて集まる人々。ゲスト、ご近所さん、常連さん、スタッフ等々。その日ごとに違う雰囲気があります。その日その時間を共有した人にしかわからない、ニ度と無いかけがえのない時間。みんながまとまって飲む夜もあれば、その日出会ったそれぞれのグループでそれぞれに盛り上がる夜。カウンターで語り合う夜。少人数で穏やかな夜。その全てが心地よいものです。
23時で完全消灯、語り足りないゲストやスタッフ、ご近所さんは真夜中の下諏訪の街へと。音の響く古い物件だからこそ、普段よりも周囲の人、家を共にする仲間のそれぞれの夜を尊重しながら、楽しく過ごしているように思います。
ゲストもスタッフも心地よい、空間デザインと運営体制
この様な時間を提供するマスヤには、様々な工夫や要素があります。
その要素の一つがハード面にあります。
古い旅館を古材を使ってリノベーションされたマスヤは温かみがあり、和やかな雰囲気を醸します。元の旅館を活かしながら、どうすればゲストが心地良いか、泊まりやすいかを考えてデザインされた宿は、泊まる人をワクワクさせたり、穏やかな気持ちにさせてくれたりします。多くをDIYによって改装してあることも物語を創っているのではないでしょうか。最新鋭の設備ではない、想いのこもった宿だからこそ、ゲストも自分ごとのように大事に過ごしてくれるのではないかなと思います。
一方、ソフト面ではスタッフの心配りがあります。チェックインや街の説明での会話の中で、ゲストとスタッフの壁は低くなり、何かあれば聞ける話せる関係になります。また、1人の時間を楽しみたい時はそれを優先し、他のゲストなどと楽しみたいときは上手くハブになるという適度な距離感があるのも良い点なのではないかと思います。 また、スタッフ自身も気負いなくその場を楽しんでいるということが場の一体感を生んでいると思います。
私が働きながら感じたのは、スタッフ自身もプライベートな時間を大切にしながら、ゲストと共に過ごす時はその空間をめいいっぱい楽しんでいるということです。この宿が好きだから、心地よい空間になるようにしたいと思っています。一方でそれは知らず知らずに疲れが溜まることでもあります。それを防ぐためにマスヤは5人以上のスタッフによるシフト制で回すことで、スタッフ自身の生活も大切にし、いつでも新鮮な気持ちで宿に関われる体制を築いています。これも大事な要因だと思いました。スタッフの生活が近くにあることで、街の玄関としての機能も強化されているように感じます。
場を豊かにする「マスヤ」の地道な予約オペレーション
前述のようにスタッフ自身が気持ちよくマスヤで過ごすことが場を豊かにしている要素の一つです。その上で改善を重ねてきた仕組みがたくさんあると感じました。
その中に予約管理があります。 マスヤの予約管理はwebフォームと電話、口頭に大別されます。感覚的にはwebが半分くらいのイメージです。 毎朝、予約フォームからのメールチェック、メール返信、前日に電話および口頭で受けたものの確認、その日にチェックインされるゲストの確認等を行います。基本は紙媒体をマスター台帳にした予約管理です。 それぞれのツールで予約をしたゲストを紙のスケジュールにまとめていきます。それをもとに、チェックイン リスト、googleカレンダーの表記を修正します。最終確認については、送信済みメール、webフォームからのやり取り、紙へのアウトプットと1人で三つの要素を再度チェックし、当日のチェックインリストとマスター台帳にダブルブッキングや抜け漏れがないように徹底します。もちろん、朝だけでなく、その後は随時予約を更新し、常に最新のものを紙に落としていきます。
直前キャンセルがすぐに埋まる?リビングでの会話から生まれる延泊ニーズ
ここで面白いのはweb予約ばかりでなく、電話や口頭予約が比較的多いということです。電話については、やはり当日や前日のご予約が一定数いらっしゃるということ。急遽仕事が休みになったり、長野に寄る用事ができたりした時に、すぐに「あ、マスヤに泊まっていこう」「マスヤでみんなと遊んいこう」という考えが浮かんでくる。再び行く場所、帰るところに自然となっている様な節があります。
リビングでくつろいでいるゲストたちが様々に繋がり、楽しんで、会話をして、「あ、延泊をしよう!」と心に決めたタイミングで、その場でカウンター内にいるスタッフへ延泊の申請をします。滞在中に知った来月のイベントに来たいと思って、その場でイベント当日の予約をするゲストがいたり。すごくゆっくりできて気に入ってしまったから、次の季節の下諏訪とマスヤにも来たいと思ってしまったゲストが予約したり。そういうことが頻繁に起こっていました。 例えば、マスヤが気に入ってしまい、そのまま延泊したかったけど翌日が満室だった20代の女性。出発日のbarタイムまでめいいっぱい楽しんでいたその時、直前のキャンセルの電話が。その場で、カウンターから女の子へ一声!その夜はさらに楽しい夜へ。
予約管理を確実にするということはもちろん、リビングに集まれば、何かがおこる、楽しめる、情報がそこにあるという状況をつくることで、直前のキャンセルが入ったときでも、すぐに予約が入るような循環を生んでいるといえます。
人や情報が自然と集まってきて、その日だけの貴重な出会いや関係性を自然と作り出すマスヤゲストハウス。
効率化だけを推し進めるのではなく、自分達にあった方法を模索していく、その信念がある宿です。今後は宿の良さを大事にしながら、状況に合わせて予約サイトの運用も検討していくそうです。
今回は私が見た光景のほんの一部を記載しました。訪れた人それぞれの想いや気づきがもっとたくさんある思います。是非一度宿泊してみてください!
マスヤゲストハウス 〒393-0062 長野県諏訪郡下諏訪町平沢町314 Tel. 0266−55−4716 (8-11時,16-22時) http://masuya-gh.com/
文・写真:西村拓也、編集:星野陽介