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めざすは“お酒のテーマパーク”。 東京・福生の蔵元「石川酒造」が挑戦する、 見学ツアーの刷新とファンづくり。

ビジネス

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2019.08.08 2022.12.27
予約ラボ編集部

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工場見学でファンを増やしたいけれど、お酒好き以外の来場者が増えない。
入場は無料、しかしサービスの質を向上させづらい。
なにより予約対応が負担になって通常業務に支障をきたす……。

こうした課題をクリアしながら「お酒のテーマパーク」として来場者を増やしているのが東京・福生にある石川酒造です。
どんなプロセスを経て“予約の改革”へと踏み切ったのか?
実際の工場見学を体験しながら、同社のキーパーソン・石川雅美さんにお話をうかがいました。

石川酒造株式会社:http://tamajiman.co.jp/

酒蔵見学ツアーにおける課題

石川酒造は文久3年(1863年)創業、150年以上の歴史を持つ日本酒の蔵元です。小澤酒造(「澤乃井」)や豊島酒造(「屋守」)などと並んで、東京都内に現存する数少ない蔵元のひとつとして知られています。代表銘柄である「多満自慢(たまじまん)」をはじめ、80種類以上の日本酒を展開。また1998年からはビールの製造販売に着手するなど、精力的な取り組みを続けてきました。

  • 日本酒の国内出荷量は、年々下がり続けています。酒造りは斜陽産業なんです(笑)。業界の先細りを少しでも改善したいと思って、弊社では日本酒のファンづくりに力を入れてきました。その一環として、以前は無料の酒蔵見学ツアーを開催していたんです。

    石川

都心から電車でアクセスできる好立地の蔵元で、しかも無料で試飲が楽しめるとあれば放っておいても来場者が増えるのでは? そう思ったのですが、このツアーにはいくつもの課題があったそうです。

 

酒造見学ツアーの刷新を主導した石川雅美さん(中央)

 

  • お酒好きのお客さまにしかアピールできていなかったんです。酒蔵見学のツアーですから当然ではあるのですが、ファンづくりという側面からは、もっと幅広い層、たとえば日本酒になじみの少ない女性や若い方たちにも魅力を訴求していきたいと考えていました。

    石川

また、“無料”というサービス手法にも限界がありました。試飲してもらえる種類や量がどうしてもかぎられてしまい、せっかく来場していただいた方々が不満を感じることもあったとか。本来アピールしたかった、独自性の高い銘柄を提供することができていなかったのです。

  • 従業員側の負担が大きいのも問題でした。以前は電話受付のみで、工場見学専用の人員が割けなかったため、お酒の発注や納品といった通常業務のあいまに、予約の電話が掛かってきてしまう。情報は紙の台帳だけで管理していましたので、ツアーの空き数の確認をするだけでも手間が掛かっていました。

    石川

 

 

石川酒造の改革①―有料化とコース設定の細分化

こうした問題点を解消し、ファン層を広げながら従業員の負担軽減に取り組むことはできないだろうか? まず石川さんが考えたのは、見学コースの内容を新しく設定しなおすことでした。

  • 以前からあった無料コースに加えて、有料の見学コースを新たに3種類作りました。所要時間はそれぞれ45分(700円)、約1時間(1,000円)、約2時間半(1,800円)で、見学内容や試飲できるお酒の種類などが異なります。

    石川

 

 

ここでの重要なポイントは、無料コースを簡略化したこと。事前予約不要で当日受付OK、さらにガイドによる案内や試飲をやめたことで、従業員への負担を大きく軽減することができたそうです。

新たに設定した有料コースについては、おもに新規採用のスタッフが案内役などを担当。以前にもまして多彩なサービスを提供することが可能になりました。日本酒をめぐるコースでは、いちばん味わってほしかった純米大吟醸の試飲を開始。ほかにもクラフトビールの飲み比べやランチ付きのコースなど、来場者のニーズに合わせたバリエーションを用意しました。

 

以前は無料コースしかなかった見学ツアーを細分化

 

酒蔵のなかでランチが楽しめるコースも新しく設定した

 

有料コースには直売店の割引券をつけ、お土産を購入しやすくするという工夫も

石川酒造の改革②―予約システムの導入

3つの有料コースは事前予約が必要ですが、ここにはオンライン予約のシステムを新たに導入。それまで紙の台帳で管理していた予約内容を、担当者間で共有することが容易になりました。

  • 普段から発注・納品に関する電話連絡が多いので、途中で見学ツアーの電話が入ると通常業務の妨げになっていたんです。システムを導入してからは、多くのお客さまにオンラインで予約していただけるようになりました。団体は受け入れる前のご説明やヒアリングがあるため、今でも電話予約が多いのですが、その場合も担当者がシステムの管理画面を見ながら作業できるので、残りの空き数などが瞬時に把握できます。

    石川

 

 

以前は平日の業務時間内にしか電話対応ができなかったのですが、24時間いつでも受付が可能になったことで見学予約の受注ロスを削減。

また、急な増枠にもフレキシブルに対応しやすくなりました。たとえば、すぐに予約で埋まってしまうゴールデンウイークなどは、石川さん自身がガイド役を担当して受付数を増やすといった対応策を取っているそうです。

 

 

こうした施策を講じる際には、新しい業務が負担にならないようフォローしたり、システム導入のメリットを丁寧に周知するよう心がけた、と石川さん。その結果、従業員の意識にも変化が生まれているようです。

  • 『お客さまからリクエストがあったんですけど、ここを改善しませんか』といった提案を受けることも増えました。サービスを良くしていきたいという主体性が、スタッフのあいだに芽生えてきた感触があります。

    石川

石川酒造の改革③―魅力の再発見と、新たなニーズの創出

とはいえ、無料だった工場見学ツアーを有料化するという“改革”は、来場者の減少に繋がりかねない懸念もあったはず。
石川さんが決断に踏み切ったポイントは、どこにあったのでしょうか。

  • 私たちの会社には、古いものを大事にするという先代の考えが脈々と引き継がれています。そこに立ち返って、石川酒造というブランドがそもそも持っている潜在的な魅力にもう一度目を向けてみたんです。

    石川

 

たとえば、石川酒造の敷地内には江戸時代から明治期に建てられた国の有形文化財が6棟も残っています。中庭には本格的なイタリアンレストランがあり、高々とそびえる樹齢700年のケヤキは格好の撮影スポットに。

見学ツアーだけでなく、その周辺の要素をアピールすることで、日本酒ファン以外の来場者を掘り起こすことができるのでは、と考えたわけです。

 

敷地内にある有形文化財を目当てに訪れる来場客も増えた

 

結果、石川さんのねらいは的中し、歴史や日本文化・建築・グルメやパワースポットに興味のある来場者が増加したそうです。自然に囲まれた福生の立地を活かして、郊外でのハイキングやドライブがてら立ち寄ってもらうという流れも。かつてはお酒好きばかりだった見学ツアーに、思い出作りを目的とした女性客が参加することも珍しくなくなりました。

見学ツアーの刷新と予約システムの導入に加えて、これまでとは別の角度からスポットライトを当てることで新たなニーズを発掘。いくつもの挑戦が相乗的な効果を上げながら、石川酒造の歴史は新しい局面を迎えつつあります。

 

  • 来場していただく皆さんの目的はそれぞれ違っても、石川酒造のどこかに居心地のよさを感じていただければ、と。それが“お酒のテーマパーク”の理想像だと考えています。

    石川

 

樹齢およそ700年のケヤキの巨木は、石川酒造のトレードマークになっている

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