BACK
X X

恵方巻から考える「予約」と「SDGs」

考察

/
2022.03.09 2022.03.11
中谷 淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

INDEX

みなさん、こんにちは。

2月といえば節分、節分といえば恵方巻。みなさんは節分に恵方巻を食べましたか?

もともと恵方巻は、関西地方が発祥だったようですが、1990年代に入りコンビニエンスストア各社が全国で販売するようになったそうです。

当時は「恵方巻?なにそれ?商売のために風習を押し付けないで」と、得も言われぬ嫌悪感がありましたが、今では何の違和感もなく「節分だから恵方巻くらい食べますか」といった調子で、コンビニで恵方巻を購入していたりします。

恵方巻

すっかり定着した感のある「節分に恵方巻」という風習。それまでなかった風習・慣習・文化を新たにつくり出し、特定の商品を売れるようにすることは、恵方巻に限った話ではありません。

例えば、2月のイベントは節分以外にバレンタインもありますが、バレンタインデーにチョコレートをプレゼントする風習も企業のプロモーション活動として日本でつくられた文化です。ほかにも海外発祥の文化としてはハロウィンやクリスマスなどがありますが、こちらも季節のイベントとして日本に定着しています。

また、「土用の丑の日」に鰻を食べる風習も、その起源には諸説あるらしいですが、江戸時代に平賀源内が「夏場に売上の落ちる鰻屋のために考案したキャッチコピーだった」という説が有力視されており、やはりつくられた文化といえるのではないでしょうか。

このように、文化は常に人の手によってつくられ定着していくものであり、それ自体は決して悪いことではないと思います。また、マーケティングを「売れる仕組みづくり」とするならば、文化をつくることは「売れ続ける仕組みづくり」であり、マーケティングの究極の目的ともいえます。

前置きが長くなりましたが、今回のコラムでは「恵方巻」と「予約」、そしてSDGsについて考えてみたいと思います。

「予約」と「恵方巻」

文化として定着した感のある恵方巻ですが、一方で恵方巻商戦が年々加熱することで、売れ残った商品が大量廃棄されている実態が明らかになっています。これに伴い、2019年には農林水産省が需要に見合った販売を呼びかけるため「恵方巻のシーズンを控えた食品の廃棄を削減するための対応について」という事務連絡を食品小売事業者に対し初めて発出しています。

その後、毎年この取り組みは継続されており、2020年からは恵方巻のロス削減プロジェクトを呼びかけ、参画する事業者も公表しています。

ロス削減プロジェクトには、全国チェーンの大手コンビニ・小売店のみならず地域小売企業も多数参画しており、各社「予約販売の強化」「製造・販売計画の工夫」「サイズ・メニュー構成の工夫」「当日のオペレーションの工夫」「その他」の5項目でロス削減に取り組んでいます。

特に「予約販売の強化」が要請されているためか、ここ数年コンビニ店舗における恵方巻の予約キャンペーンは、強化されている印象がありますよね。

以前、予約ラボにおいて、このプロジェクト参画企業における恵方巻の予約販売状況を調査したところ、48社中37社(約77%)が予約販売を実施し、予約限定の恵方巻を準備したりポイントなどの還元率をあげたりと、ロス削減に取り組んでいる様子がわかりました。

 調査詳細は以下をご参照ください。
 予約ラボ「恵方巻のロス削減に向けた各社の予約状況について」
  https://yoyakulab.net/research/ehoumaki_yoyaku/ 

食品ロス問題と「予約」

予約とは、すなわち「確実に購入してくれる消費者を確保すること」なので、販売形態を予約に限定すれば食品ロスは発生しません。小規模事業者、例えば街のお寿司屋さんなどであれば、食品ロス分を考慮すると「予約販売のみ」で恵方巻を販売する方が利益を最大化できる可能性があります。
しかし大手小売業では「予約販売のみ」では機会損失が大きくなるため、そう単純には決断できません。

季節商品は、期間限定であるゆえに消費者の購買意欲が高まる傾向があります。そのため(調査をしたわけではなく経験則ですが)恵方巻の単価は高めに設定されることが多いです。

小売業においては、該当シーズンにニーズが高まる季節商品は売り上げアップに大きく貢献します。これを最大限活用するためには、食品ロスを過剰に意識し欠品して売り上げ機会を損失するより、多少のロスを覚悟した販売が選択されがちです。特にコンビニにおいては「欠品させない」ことを重視するので、多めに仕入れする傾向が根強くあるようです。

また、恵方巻のような季節商品は「食べるかもしれないし、食べないかもしれない」という消費者が一定数存在します。おにぎりなど通常食の代替になりやすい商品ゆえ、例えば節分当日にコンビニに入り、その時の気分で購入する消費者も少なくないと想定されます。

その流動的な消費者をいかに予測できるかは、ロス削減プロジェクトにおける「製造・販売計画の工夫」であり、各社の需要予測の力量と現場の販売力が問われるところかもしれません。しかし、恵方巻を予約した消費者は当日追加で購入しないと考えられることもあり、過去の販売データから予測するとしても、その難易度は低くないでしょう。

いっぽうで、このような方策もあります。
かつての恵方巻は、一人では食べきれない量の太巻きサイズが中心だったため、流動的な消費者の購買につながらないという一面もあったのかもしれません。しかし、農水省の呼びかけ以降は、中細巻や子ども向けの小さめサイズが多くなった印象があります。これはロス削減プロジェクトの項目にある「サイズ・メニュー構成の工夫」の効果であり、流動的な消費者に購入してもらうための合理的な手立てといえそうです。

SDGsと「予約」

食品ロス問題は、近年注目されているSDGs17の開発目標における12番、「つくる責任つかう責任」に含まれるテーマです。目標内の具体的に定められたターゲットの3つ目に「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる」と明記されています。

全ての食品が予約販売であれば、製造・小売における食品ロスは限りなくゼロに近くなります。しかし、企業が利益を追求し大量生産大量販売を前提にする限り、自由競争を前提にする限り当日販売は不可欠であり、業界全体が足並みを揃えない限り恵方巻を「予約販売のみ」とすることは難しいでしょう。そして、そのことは「食品ロス」は完全にはなくならないことも意味します(いつしか予約販売のみで成立する、規模が拡大しても企業として成長できるビジネスモデルが確立されることを期待はしていますが)。

このような実情から「予約販売の強化」に加え、農林水産省のロス削減プロジェクトにある「製造・販売計画の工夫」「サイズ・メニュー構成の工夫」「当日のオペレーションの工夫」といった取り組み項目は、恵方巻に限らず食品ロスを削減するためのポイントとなり得ます。「ロスを減らす」「無駄をなくす」という観点から他業種においても参考になる事例といえるのではないでしょうか。

予約ラボの視点からは、「予約販売の強化」に取り組むことは、SDGs推進につながると解釈することもできそうですね(我田引水・笑)。

参考文献

農林水産省「季節商品のロス削減」

https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/kisetsusyokuhin.html

前回の記事

このシリーズの一覧を見る

中谷淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

この記事を読んだ人へのおすすめ

PICK UP STORY

コラム

中谷コラム - 予約の研究

Last update 2022.03.09

特集

予約は未来の約束
~ビジネスを成功させる理想の予約とは~

Last update 2022.03.09

INFORMATION

CONTACT