中谷コラム14

2021/04/20

オンライン予約が出来るのになぜ電話予約するの?(予約に関する文献レビュー①)

こんにちは。

しばらく本コラムでは「キャンセル料調査結果」をネタにした内容が続いていましたが、今回は少し違うネタをお届けしたいと思います。

予約はネットで?それとも電話で?

みなさんは、オンライン予約ができるのに、電話で予約を取ることはありませんか?

インターネットが普及する前は、あらゆる予約は直接出向くか電話しか方法がありませんでしたが、現在では多くの予約がオンラインで可能になっています。

航空券を予約する際などは、ほとんどの人がオンラインで予約しているのではないでしょうか?

ちなみに、「今も電話でも予約できるのかな?」と、日本航空と全日空のホームページを確認してみたところ、電話で予約もできるようです(実際に電話で予約を試みてはいませんが)。

【JAL】
国内線 ご予約・ご購入・ご案内
https://www.jal.co.jp/jp/ja/information/dom/rsv.html
【ANA】
国内線航空券・特典航空券ご予約のお問い合わせ
https://www.ana.co.jp/ja/jp/site-help/share/contact/domestic_bookflight.html

ホテルや旅館についてはどうでしょうか?

宿泊予約サイトから予約をする方が多いかもしれませんが、ホテルや旅館に直接電話で問い合わせて予約をする方も、少なくないように思います。

飲食店についても、最近はグルメ情報サイトから予約が簡単に出来るようになり、オンライン予約も広がっているように思いますが、まだまだお店に直接電話をする方が多いのではないでしょうか。

同様に、歯科医院や整体院、美容院なども、利用した直後に次回の予約をしたり、電話で担当者の空きを聞いたりして直接予約する人が多いのではないでしょうか?

こうして予約方法を俯瞰してみると、オンライン予約が当たり前になっている業種業界もあれば、仕組みがあるにも変わらず、いまだ電話予約が一般的な業種業界があることが見えてきます。

事業者側(予約をされる側)にとって、電話予約よりもオンライン予約の方が、負担が少なく良いはずですが、消費者側(予約する側)に、オンラインではなく電話を選択する人が一定数存在するのです。

航空券やホテル旅館などの宿泊施設も、スタートしてすぐにオンライン予約に移行したわけではなく、徐々に定着してきた経緯があることを考えると、いまだ電話予約が多い業種業界であっても、消費者側(予約する側)に定着していくことも時間の問題かとは思います。

すなわち、「オンライン予約ができるのに、電話で予約する消費者側の心理」、「オンラインを使わない要因」とは何だろうかと気になり、関連する先行研究が無いかを調べてみたところ、まさにこれ!という論文を発見しました。

2017年に、「Journal of Services Marketing」という学術誌に掲載された「Digital booking services: Comparing online with phone reservation services」という論文です。邦題をつけるならば「デジタル予約サービス:オンライン予約と電話予約の比較」となりましょうか。

本論文の筆者は、Mario Schaarschmidt氏とBjörn Höber氏で、ドイツのコブレンツ・ランダウ大学に在籍されている研究者です(※執筆時点)。

今回のコラムは、これまでとは趣を変え、その論文の内容を、なるべくわかりやすく紹介してみたいと思います。

論文の紹介

本研究は、ホテルや航空券のオンライン予約サービスが浸透している一方で、美容院や飲食店、病院などの分野では、オンライン予約サービスが広まってきてはいるが、まだ浸透しているとは言えないという状況に問題意識を持つところからスタートしています。
その問題意識を出発点にして、消費者側がオンライン予約サービスを選択しない要因(電話予約をする要因)を明らかにするために、サービスの複雑さに着目した実験(アンケート調査)を行っています。

実験は、セルフ・サービス・テクノロジー(以下、SST)に関する先行研究を参考に行われています。SSTとは、字のごとく「セルフ・サービスのための技術」であり、例えば銀行ATMなどが該当します。

オンライン予約サービスをSSTの一形態とし、SSTのこれまでの研究を援用して、オンラインサ予約サービス利用における消費者の利用阻害要因、つまり、オンラインで予約できるのに電話で予約する理由は何かを、特に「サービスの複雑さ」と「知覚された リスク」に焦点をあてて実験を行っています。

実験の結果、「サービスの複雑さ」はオンライン予約か電話予約かの選択に影響はなく、影響するのは「知覚されたリスク」であり、知覚されたリスクは、「オンライン予約に対する態度」と「人的なやり取りに対する態度」が影響するという結論を導き出しています。

と、研究の概要を紹介すると以上なのですが、論文慣れしていない方には分かりづらいかと思いますので、内容に即して補足していきたいと思います。

SST(セルフ・サービス・テクノロジー)とは?

まずは、SSTについてです。銀行ATMは銀行におけるSSTの1つであり、こちらは既に世の中に定着し多くの人が使っています。しかし、一方で同じ銀行のSSTであるオンラインバンキングは、利用が広がっているとは言い難い状況にあります(オンラインバンキングでできることを、わざわざ銀行窓口やATMまで出向いて処理している人が少なくないことをイメージしてみてください)。

SSTの先行研究では、サービスの成熟度が影響しているとされていて、オンライン予約サービスにおける消費者の利用意向に成熟度が影響を与えると論じられています。(銀行ATMは成熟度が高く、オンラインバンキングは成熟度が低いということになります)

航空機やホテル旅館などのオンライン予約は成熟度が高い状態で、まだ定着していない病院や飲食店など他のサービスのオンライン予約サービスは成熟度が低いということになります。(これは普及した、定着したとも言い換えられそうですね)

知覚するリスクとは?

続いて、「知覚するリスク」についてですが、先に例にあげたATMとオンラインバンキングを例に説明してみたいと思います。

預金口座からお金を引き出す際に、ATMだと“機械がお札の枚数を間違えるのではないか?”などの懸念があり、は銀行窓口で毎度お金を引き出す…ATMが世の中に登場したばかりのころには、もしかしたらそのような不安を抱く人も多かったかもしれません。しかし、広く普及している現在では、そのように心配する人は極めて少数ではないでしょうか。この状況は、つまりATMが人々の生活に定着し「知覚されるリスク」は低くなったということになります。成熟度の高いサービスは、知覚されるリスクも低くなる傾向があります。

一方で、オンラインバンキングは、使い慣れれば銀行窓口やATMに足を運ばずとも残高確認や銀行振込など大半の手続きができる大変便利なサービスなのですが、「不正ログインされるのではないか」「間違った操作をしてしまうのではないか」といった不安から一切使わない人が存在します。それがオンラインバンキングに対して「知覚するリスク」が高いと感じている人たちです。オンラインバンキングを利用し、利便性を認識している人は「知覚するリスク」は低いと感じているということになります。

SST利用に際するリスクとサービスの複雑さ

ここで、リスクについても補足しておきたいと思います。SSTの先行研究では、サービスの成熟度以外にSST利用によるリスクの影響が論じられています。SSTは利用者に生じる責任を転嫁するため、そのリスクの捉え方がSSTの利用意向に影響するそうです。

またちょっと小難しい説明になりましたので、「SSTは責任を利用者に転嫁し、それが知覚リスクにつながり、SST利用意向に影響する」ことを、オンライン予約サービスを例に説明してみたいと思います。

例えば、オンライン予約サービスでは、日時やサービス内容の選択は利用者本人の責任で行われます。経験ある方も多いのではないかと思いますが、オンライン予約では、うっかり入力間違いをしてしまう可能性もありますよね。SSTは、そうした間違いのリスクを利用者が負うことになります。これが、電話予約であれば(言い間違える可能性は排除できませんが)、日時やサービス内容を電話で対応する事業者側のスタッフと行うので、オンライン予約に比べリスクが少ないという考え方です。

間違えるかもしれないリスクを過度に考える消費者は、うっかり間違いが生じる可能性のあるオンライン予約を避け、より確実な電話予約を選択するのではないかというものです。(電話でもうっかりが無いわけではありませんが、オンラインの方が生じやすいと考えるということです)

続いて、「サービスの複雑さ」についての補足です。論文では、レストラン、美容院、自動車工場、歯科医院の4つのサービスをあげて、消費者側からみた「サービスの複雑さ」を調査しています。結果は、レストランが「最も複雑でない」サービスで、歯科医院が「最も複雑」なサービスとなっています。

この「サービスの複雑さ」が、オンライン予約サービスの利用に影響を与えるのではないかと、本研究では仮説を立てていましたが、これは影響しないという結論になっています(ただし、サービスの複雑さと、知覚されるリスクには関係があるという結果が出ており、そのことについては今後の研究課題としています)。

本研究からの気づき

最後に、今回紹介した論文内容を、どのように今後の予約サービスに活かしていくべきか考察してみたいと思います。

サービス成熟度が高ければ、オンライン予約サービスは利用され、低ければオンライン予約ではなく、変わらず電話で予約をすることがわかりました・

オンライン予約の利便性を訴え、まずは利用してもらい慣れてもらうことが必要という、当たり前の帰結になるのですが、ポイントは消費者がオンライン予約サービスに対して「知覚するリスク」であり、リスクを感じているうちは利用してもらえないということを認識しておく必要がありそうです。

この論文を読んで、自分自身、「ネットから予約したけれど、ちゃんと予約できているかな?」と心配になり、念のためお店に電話をしてしまった経験を思い出しました。

オンライン予約サービスが、電話に比べ簡便であること、オンラインの利便性が高いことを前提として、オンライン予約サービスの利用浸透を促すためには、「知覚リスク」を下げるための手立て、つまり消費者が感じる不安を軽減するために何をすべきか考えていくこと大切ということになりますね。

え、そんなの当たり前じゃないかって?

実ビジネスで感覚的、経験則的に理解していることを科学的に明らかしているので、そう思える論文は良い論文だと考えています。

ということで、今回のコラムは以上です。
今後も定期的に予約に関する海外論文を紹介していきたいと思います。

【参考文献】
Schaarschmidt, M., & Höber, B. (2017), “Digital booking services: comparing online with phone reservation services”, Journal of Services Marketing, 31(7), 704-719.

中谷淳一
中谷 淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

予約ラボでは、共同研究や予約に関する調査を行っています。

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