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【現場取材】宿泊施設と大手宿泊予約サイトのキャンセル実態

考察

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2021.02.26 2021.11.17
中谷 淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

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みなさん、こんにちは。

昨年よりキャンセル料支払い実態調査を行い、その結果を本コラムで紹介してきましたが、

「調査結果が、ホテル旅館の実態と乖離した結果になってはいないだろうか?」

という懸念がありました。

結論として、これまでの調査結果は概ね実態を反映していることが確認できましたが、いくつかの項目において実態と乖離がある部分や、調査では見えてこなかった実態も見えてきました。

 

《これまでのキャンセル規定・キャンセル料についての調査結果》

ということで、今回はインタビュー先の詳細、実名は伏せた形になりますが、それぞれに伺った内容の一部をコラムとしてご紹介します。

宿泊施設のキャンセル実態は…

2020年12月上旬、関東某県の観光地にある、客室100室以上のホテル予約責任者の方に実名を公表しないことを前提に、以下の通りお話を伺ってきました。

Q.1 コロナ禍におけるホテルの予約状況、営業状況はいかがですか?

A.13月以降、特に緊急事態宣言期間中は大きな打撃を受けましたが、その後徐々に回復し、10月から始まったGoToキャンペーンにより昨年以上にお客様にお越しいただいている状況です。

Q.2 キャンセル料支払い実態の調査結果と現場とでは違いはありますか?

A.2総じて乖離はなく、感覚的には現場実態を反映しているように思います。ただ、宿泊予約サイト経由の事前決済比率は若干高いように感じています。当ホテルでは3割程度(※実態調査結果では下のグラフの通り65%)。自社サイトからの予約でも決済機能がありますが、GoToキャンペーンが始まり、条件が目まぐるしく変わるため現在は自社サイトでの事前決済機能は止めているという状況です。

※予約ルート別事前決済の有無(詳細はこちら

予約ルート別 事前決済の有無

Q.3 宿泊施設への直接予約はキャンセル料未払い率が高い結果ですが、実際はどうですか?

A.3よほど悪質でない限り、何か理由があればキャンセル規定で支払いが生じる場合でもキャンセル料はいただいていません。特に明確なルールがあるわけではないのですが、請求する業務が現場の負担になるということもあります。キャンセル料を無理に請求して関係を悪くするより次の機会に選んでもらえれば良いのではないかと考えています。

予約ルート別キャンセル料支払い実態

Q.4 直前のキャンセルの場合、機会損失が大きく経営に打撃があるのでは?

A.4詳細にデータ集計して分析しているわけではありませんが、直前キャンセルは、予約全体の10%未満、おおむね5%程度ではないかと思われます。特に週末などは当日飛び込み客も一定数あるため、前日キャンセルであっても大きな影響は感じられません。規模が小さな宿泊施設では影響が大きいと思うので、個々によってキャンセル料の考え方、扱いは違ってくるのではないでしょうか。

Q.5 直前キャンセルを減らすための対策はされてますか?

A.5現状は特別何か対策を講じていることはありません。取り組む必要性もあるとは思うのですが、直前キャンセル対策よりも、平日の稼働率をあげることや一組あたりの単価をあげる取り組みの方が、優先順位としては高いと考えています。

 

 

宿泊施設への直接予約の場合、「直前キャンセルであっても施設側がキャンセル料を請求していない」という想定をしていましたが、その通りでした。

一方で、「キャンセル料未払いは経営への影響が大きく、キャンセル料不払いを解消したいというニーズが大きいのでは」と想定していました。しかし、今回のインタビューを通じて、実際そこまで大きな課題として現場では取り上げられておらず、経営への影響は比較的少ないということを知ることになりました。

後者に関しては、宿泊施設の規模によって状況が異なると考えられるため、今後、小規模旅館・ホテルの実態調査が必要となりそうです。また、予約という視点から「稼働率をあげるための予約のあり方」、「その際のダイナミックプライシングの活用と顧客満足度」、「宿泊あたりの単価をあげるための取り組み」、「イールドマネジメント(収益を最大化する戦略)」について更に探求していく必要性を感じました。

大手宿泊予約サイトのキャンセル実態は…

2020年12月下旬、元大手宿泊予約サイト運営企業に勤務し直接事業に関わられてきた方に、こちらも実名を公表しないことを前提にお話を伺ってきました。

Q.1 キャンセル料支払い実態の調査結果と実際の現場では違いはありますか?

A.1宿泊予約サイトの事前決済比率が実態より高く出ているように感じられます。GWや年末年始などの特別な期間やプランによって異なりますが、携わっていた宿泊予約サイトでは、事前決済率は3割程度。

Q.2 宿泊予約サイト経由での予約に対するキャンセル料はどのような対応をされていますか?

A.2キャンセル料を請求するか否かは宿泊施設側に委ねられているため、実態としてサイト側は関与していない状況です。事前決済されていなければ、業務負担のこともあり請求していない場合が多いはず。キャンセル料も請求しないと宿泊施設側が判断すれば、当然キャンセル料の支払いは無いということになります。

Q.3 宿泊予約サイトとしてのキャンセル対策は講じていましたか?

A.3特に対策は取っていませんでした。もちろん、キャンセルされれば宿泊予約サイトとしても手数料が入ってこないわけですが、そこに対策を講じるより、次々と新規で予約を取る方が優先順位としては高いと考えます。

Q.4 宿泊予約サイト・宿泊施設の「予約」獲得についてご意見をお聞かせください

A.4規模の大きなホテルや旅館は、独自では予約を埋めきれないため、宿泊予約サイトを利用せざるを得ない状況です。宿泊予約サイト運営企業も多額の広告費を投下して宿泊予約を獲得しているので、手数料削減のために宿泊施設側が独自で広告費を投下して予約を獲得するのは合理的とは思えません。比較的規模の小さいホテルや旅館においても、宿泊予約サイトを上手く活用して効率的に予約を獲得している施設も出てきていますが、まだまだ多くないのが現状です。積極的に活用していく方法論を知り、多様なの施設に利用してもらえたらと思います。

 

 

宿泊予約サイト側からも、これまでの調査結果における事前決済比率について実態との乖離を指摘されました。これまでの調査はインターネット調査ということで、インターネットサービスの利用頻度の高い方が回答者に多いことが要因の1つであると予想されます。

まとめ

事前決済とキャンセル料支払いの相関が高いことは前回のコラムでも紹介しました。実態として事前決済率が調査結果より低いとすると、キャンセル料を支払っている率も低くなると考えられます。それは即ち「キャンセル料の不払い率」が高くなることになります。
しかし、「規定通りのキャンセル料を宿泊施設側が徴収できていないことが経営的な課題である」という想定については、インタビューを通じて現場レベルでは優先順位が必ずしも高くない状況であることがわかりました。

調査結果では事前決済比率のみが実態より高めとなっていましたが、それ以外は概ね実態と乖離が無いことが今回のインタビューからわかりました。今後、規模の違う宿泊施設や旅行代理店へのインタビューも行う必要は生じたものの、

「調査結果が、ホテル旅館の実態と乖離した結果になってはいないだろうか?」

の懸念は一旦払拭することができました。

引き続き、キャンセル料については探求をしていきたいと思いますが、今回の調査に関するコラムは以上としたいと思います。

 

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中谷淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

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