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【海外論文紹介】キャンセル料を厳しくすればノーショーはなくなるのか

考察

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2026.10.22
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中谷 淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

INDEX

みなさん、こんにちは。
再始動したコラム連載とは少し趣を変えて、不定期で海外で発表された「予約」に関する研究を紹介したいと思います。今回紹介するのは、2025年に『International Journal of Consumer Studies』に掲載されたEsther L. Kim氏らによる「レストランのキャンセルポリシーとノーショー啓発キャンペーンが予約行動に及ぼす影響」(The Effects of Restaurant Cancellation Policies and No-Show Awareness Campaigns on Reservation Behaviors)という論文です(※1)。

予約における「ノーショー」問題

スマートフォンからインターネットで簡単に予約できるようになり、私たちにとって予約は身近で手軽なものになりました。その一方で、複数の店を「とりあえず」予約し、不要になってもキャンセルの手続きをしない利用者の存在が問題視されるようになります。

予約したにもかかわらず、連絡をしないまま店に現れない。これが「ノーショー」です。店は予約席を空け、料理や食材を準備し、スタッフを配置しています。さらに、直前まで席が埋まっているように見えるため、ほかのお客様を受け入れる機会まで失われます。

2017年秋には、東京・下北沢の居酒屋で、学生団体による130人分の予約が当日キャンセルされた事例が、SNSやニュース番組などで大きく取り上げられました(※2)。こうした具体的な被害が相次いで報じられたことで、飲食店が受けるキャンセル被害に社会的な関心が集まりました。

翌2018年、経済産業省は「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」を公表しました。同レポートでは、日本の飲食店におけるノーショーの被害額を年間約2,000億円と推計しています(※3)。このレポートの公表や一連の報道を契機に、ノーショーは単なる「個人のマナー違反」ではなく、飲食業界に大きな損失をもたらす「経済問題・社会問題」として認識されるようになったと、私は考えています。

もちろん、約2,000億円という金額は現在の被害額を示すものではありません。しかし、ノーショーが個々の店舗だけの問題ではなく、業界全体に関わる問題であることは、この数字からもよく分かります。

それならば、高額なキャンセル料を設定したり、キャンセル期限を早めたりすることが、対策として考えられます。しかし、ルールを厳しくするほど、利用者が予約そのものをためらう可能性もあります。ノーショーは減ったとしても、同時に予約客まで減ってしまうかもしれません。

厳しいルールが生む二つの効果

入力画面に注意喚起の表示今回紹介する論文では、キャンセル料、キャンセル期限、キャンセル方法、ノーショーの悪影響を伝える啓発キャンペーンが、消費者の予約意向や予約を守る意向にどう影響するかを、三つのオンライン実験で検証しています。

この研究が捉えたのは、キャンセルポリシーが持つ二つの相反する効果です。厳しいポリシーは、予約を軽く扱いにくくする抑止力として、「予約を守る意向を高める」効果があります。その一方で、消費者にとっては、予定が変わったときに費用や手間を負うリスクになります。店舗を守るためのルールが、予約をためらわせる壁として「予約意向が低下する」効果にもなるのです。

実験 参加者 比較した条件 主な発見
1 400人 キャンセル料20ドル・100ドル
期限24時間前・72時間前
高額なキャンセル料は予約意向を低下させ、期限を緩くする効果も目立たなくした
2 356人 キャンセルポリシーの有無
ノーショーへの理解度
理解が高い人ほど、厳しいポリシーによる予約意向の低下が小さかった
3 320人 キャンセル料
キャンセル方法
啓発メッセージ
緩やかなポリシーと簡単なキャンセル方法に啓発を組み合わせると、予約を守る意向が高まった

表1 三つの実験の全体像
出典 Kim et al.(2025)をもとに筆者作成

実験1 キャンセル料と期限

最初の実験には、過去6カ月以内にオンラインでレストランを予約した経験のある400人が参加しました。参加者は、キャンセル期限が24時間前または72時間前、キャンセル料が1人20ドルまたは100ドルという、四つの条件のいずれかを示されました。

結果は興味深いものでした。キャンセル料が20ドルの場合は、72時間前までに連絡しなければならない店より、24時間前までキャンセルできる店の方が、予約意向が高くなりました。ところがキャンセル料が100ドルになると、期限が24時間前か72時間前かによる差は見られなくなりました。

高額なキャンセル料が強く意識されると、「24時間前まで変更できる」という比較的緩やかな条件が目に入りにくくなると考えられます。人はすべての条件を同じ重さで比較するとは限りません。失う金額の大きさが、ほかの条件よりも判断を支配することがあるのです。論文では、思い浮かびやすく目立つ情報を手掛かりに判断する「利用可能性ヒューリスティック」から、この結果を説明しています。

予約画面には、料金、日時、人数、コース、変更期限など、いくつもの情報が並びます。しかし消費者は、それらを毎回じっくり計算しているわけではありません。「キャンセルすると100ドル」という目立つ情報があれば、それが予約全体の印象になります。キャンセルポリシーは内容だけでなく、どの情報が強く知覚されるかまで考えて設計する必要があります。

実験2 ノーショーへの理解

2つ目の実験には356人が参加し、キャンセル料のない条件と、24時間前を過ぎると1人50ドルがかかる条件を比較しました。同時に、参加者がノーショーによる店舗の経済的損失や環境への悪影響をどの程度理解しているかも測定しました。

ノーショーの影響に対する理解が低い人では、厳しいポリシーによって予約意向が下がりました。一方、理解が非常に高い人では、そのマイナス効果が小さくなりました。なぜ店がキャンセル料を設定するのか。その理由を理解している人ほど、ルールを一方的な制約として受け取りにくい可能性があります。(図1)

図1 キャンセルポリシーを厳しくすると、予約を守る意向は高まる一方、予約意向は低下することを示した図

図1 厳しいキャンセルポリシーが生むトレードオフ
出典 Kim et al.(2025)をもとに筆者作成

実験3 簡単なキャンセルと啓発

3つ目の実験には320人が参加しました。キャンセル料は20ドルまたは100ドル。キャンセル方法は、SMSに返信するだけの簡単な方法か、店に電話しなければならない方法です。さらに、ノーショーがもたらす悪影響を伝える啓発メッセージの有無を組み合わせ、8つの条件を比較しました。

参加者は、記念日のために希望の店を探したものの満席だったため、別の店を予約します。ところが当日、キャンセル期限を過ぎた後になって、最初に希望していた店に空席が出ます。そのとき、予約済みの店との約束を守るかどうかを回答しました。

厳しいキャンセル料や面倒なキャンセル方法は、予約を守る意向を高めました。ただし、先ほど見たように、厳しい条件は予約そのものを遠ざける可能性があります。注目したいのは、比較的緩やかなキャンセル料で、SMSによって簡単にキャンセルできる条件です。この場合、啓発メッセージを見た人は、見なかった人より予約を守る意向が高くなりました。電話をかけなければキャンセルできない条件では、同じ効果は確認されませんでした。

3つの実験からわかること

以上3つの実験結果を簡単にまとめるなら、厳しいキャンセルポリシーは予約を守ろうとする意向を高める一方で、予約そのものをためらわせる。そして、ノーショーが店などに与える悪影響への理解が高い人ほど、厳しいポリシーによる予約意向の低下は小さくなる。だからこそ、比較的緩やかなポリシーと簡単なキャンセル方法に、ノーショーの影響を伝える啓発を組み合わせることが、予約意向を保ちながら、予約を守ろうとする意向を高める方法として考えられるとなります。

この研究から考えること

罰則だけでは解けない

この研究から見えてくるのは、ノーショー対策を「罰則の強さ」だけで考えることの限界です。高額なキャンセル料は、すでに予約した人をつなぎ留める一方、これから予約しようとする人を遠ざけます。反対に、自由にキャンセルできるだけでは、予約に対する責任が薄くなるおそれがあります。

そこで重要になるのが、予約者に協力してもらうための設計です。キャンセルする事情が生じたら、SMSや予約画面からすぐに連絡できるようにする。同時に、無断で来店しないことが、店だけでなく、予約できなかったほかのお客様、準備された食材、働くスタッフにも影響することを伝える。(図2)

図2 緩やかなキャンセルポリシー、簡単なキャンセル方法、ノーショーの影響を伝える啓発を組み合わせ、予約意向と予約を守る意向の両立を目指す流れを示した図

図2 論文が示した対策の組み合わせ
出典 Kim et al.(2025)をもとに筆者作成

 

ここでいう啓発は、「迷惑をかけるな」と責めることではありません。なぜ連絡が必要なのかを理解してもらい、連絡したいと思ったときに簡単に行動できるようにすることです。厳しいルールを掲げる前に、予約確認のメッセージにキャンセル用のリンクを付ける、期限が近づいたらリマインドを送る、店が準備していることを短く伝える。こうした工夫にも、改善の余地があります。

これは、消費者の善意だけに期待する考え方でもありません。予約を忘れる、連絡を後回しにする、電話をかけるのをためらう。こうした行動は誰にでも起こり得ます。だからこそ、望ましい行動を取りやすくする仕組みと、その行動が必要な理由を伝えるコミュニケーションを一緒に考える必要があります。

この研究結果から考えるときの留意点

この研究結果だけで「この方法なら実際のノーショーが減る」と断定することはできません。3つの実験はいずれも架空のレストランを使ったオンライン調査であり、測定したのは実際の来店行動ではなく、主に予約したいと思うか、予約を守ろうと思うかという「意向」だからです。研究者自身も、今後は予約サイトなどと連携し、実際の行動データで確かめる必要があると述べています。

また、キャンセル料の金額や受け止め方は、店の価格帯、予約人数、国や文化によっても変わるでしょう。日本の飲食店にそのまま当てはめるのではなく、店の特徴や顧客層に合わせて検証する必要があります。

今回のまとめ

予約は、席を確保するための一方的な権利ではありません。店は未来の来店を信じて席や食材、人員を準備し、利用者はその準備を前提にサービスを受けます。予約とは、店と利用者が未来の約束を共有する仕組みとも言えます。

だからこそ、約束を破った人への罰だけを考えても、よい予約制度にはなりません。約束の意味が伝わること、事情が変わったときに簡単に知らせられること、そして店側の損失も利用者側の不安も大きくしすぎないこと。そのバランスをつくることが、ノーショー対策の本質ではないでしょうか。

みなさんは、キャンセル料が高いために予約をためらった経験や、キャンセル方法が分からず困った経験はありませんか。私は、飲食店はもちろん最近はゴルフ場の予約でキャンセル料により予約を躊躇することがよくあります。

予約を守ってもらうための仕組みは、予約したくなる仕組みでもある必要がありそうですね。

注・出典

※1 Kim, E. L., Tang, J., Kim, M., & Kim, E. J. (2025). The Effects of Restaurant Cancellation Policies and No-Show Awareness Campaigns on Reservation Behaviors. International Journal of Consumer Studies, 49(3), e70069.

※2 J-CASTトレンド「居酒屋130人予約『ドタキャン』騒動 店が最後に感謝したワケ」(2017年10月26日)

※3 経済産業省 METI Journal ONLINE「無断キャンセルが引き起こす負のスパイラル」

中谷淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

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