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万博はなぜ「予約」が必要だったのか

考察

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2026.09.25
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中谷 淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

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みなさん、こんにちは。
長らく間が開いてしまいましたが、「予約の探究」の連載を再始動することになりました。月に1、2本を目標に、身近な話題からマーケティング視点で予約について考えていきたいと思います。
再始動初回のテーマは、昨年開催された大阪・関西万博における「予約」です。

万博はなぜ「予約」が必要だったのか

みなさん、万博は行きましたか?
開幕前は建設費の増大や海外パビリオンの建設遅れなど、さまざまなことが話題になりましたが、開幕してみれば多くの人が会場を訪れ、最終的な累計来場者数は約2,902万人。AD証入場者を除くと約2,558万人に達しました。(※1)

そして、この万博でもう一つ大きな話題になったのが「予約」でした。

「予約の仕方がよく分からない」
「チケットを買ったのに、行きたい日に予約が取れない」
「パビリオンの予約が取れない」

といったSNSの投稿や報道を何度も目にしました。

大阪・関西万博では、入場チケットを購入するだけではなく、基本的に来場する日時をあらかじめ予約する仕組みが採用されました。さらにパビリオンやイベントには、「2か月前抽選」「7日前抽選」「3日前からの空き枠先着予約」、会場に入ってからの「当日登録」と、何段階もの予約機会が設けられました。(※2)

大阪府も「並ばない万博」を目指していると広報していました。(※3)しかし実際には、「予約すること自体が大変だった」という声も少なくありませんでした。

では、なぜ万博にはこれほどまでに「予約」が必要だったのでしょうか。

万博は「在庫を増やせないサービス」

ある商品が予想以上に売れた場合、メーカーであれば、追加生産して在庫を増やしたり、生産設備を増強したりすることができます。

しかし、サービスの多くはそうはいきません。

例えば、ホテルで今日空いてしまった客室を、明日二部屋分売ることはできません。美容室で午後2時に予約が入らなかった美容師の1時間を、翌日に在庫として持ち越すこともできません。

サービス・マーケティングでは、このような特徴を「消滅性」と表現します。サービスは在庫として保存できないため、需要と供給をどう調整するかが重要になります。

万博も、典型的な「在庫のできないサービス」でした。1日に会場へ入れる人数にも、1つのパビリオンが受け入れられる人数にも限界があります。さらに開催期間そのものが184日間と決まっていました。

人気が高まったからといって、翌日に2倍の人数に体験させることはできません。

つまり万博では、商品をたくさん作って需要に対応するのではなく、限られた「時間」と「空間」を来場者にどう配分するかを考えなければなりませんでした。

ゆえに「予約」が必要だったのです。

予約は「未来の需要を見えるようにする仕組み」

万博協会は、来場日時予約を導入した目的について、「来場者の安全で円滑な移動」を実現するためと説明しています。(※4)

もし予約の仕組みがなければ、週末や朝の時間帯、人気パビリオンなどに来場者が集中し、逆に平日や一部の時間帯・施設には余裕が生まれる。そんな大きな需要の偏りが生じた可能性があります。

予約を導入することで、「いつ」「どこに」「何人くらい」人が集まるのかを、ある程度事前に把握できます。

未来の需要が分かれば、交通機関をどう動かすか、何人のスタッフを配置するか、どの程度の警備が必要か、飲食店ではどれくらい食材を準備するか、といった準備が可能になります。

つまり、予約には「席を押さえる」という利用者側の機能だけではなく、まだ起きていない未来の需要を可視化するという、事業者側にとって重要な機能があるのです。

これは万博に限りません。レストランやホテル、美容室や病院も、予約が入ることで未来の顧客の存在を知り、その情報をもとに人員や設備、食材、時間などを準備できます。

予約とは、顧客と事業者との「約束」であると同時に、需要を事前に把握するためのマーケティング情報なのです。

「並ばない万博」は実現したのか

では、予約によって本当に「並ばない万博」は実現したのでしょうか。

もちろん、すべての行列がなくなったわけではありません。実際にはパビリオンに大行列ができ、入場ゲートが混雑することもありました。開幕直後には大阪府知事の記者会見でも、「並ばない万博」と現実の行列とのギャップについて質問されています。(※5)

私はここで、「並ばない万博」を目指しながら、予約制度そのものが新しい「並ぶ(待つ)」を生み出していたことに注目しました。

「人気パビリオンの抽選結果を待つ」
「3日前の先着予約開始を待つ」
「予約サイトにつながるのを待つ」
「空き枠が出ないか、スマートフォンを何度も確認する」

公式サイトも、3日前の空き枠先着予約について「非常にたくさんの申込み」があり、受付開始を待っていても希望する予約を取れない可能性が高いと案内していました。(※6)

予約によって、私たちは本当に「待たなくなった」のでしょうか。

確かに、現地で長時間並ぶ可能性は減らせたかもしれません。しかしその代わり、自宅でスマートフォンを操作し、抽選に申し込み、空き枠を探す時間が生まれました。

「予約は待つ時間を消したのではなく、待つ場所と時間を変えただけなのではないか」

という見方もできるかもしれません。これは、これからの予約サービスを考える上で重要な論点だと考えています。

予約には「コスト」がある

予約は便利な仕組みですが、予約する側にも負担があります。

日時を決める。アプリをダウンロードする。会員登録する。空きを探す。同行者と予定を調整する。抽選に申し込み、結果を確認する。

こうした行為はすべて、利用者が負担する「コスト」です。

お金を支払っているわけではないので見えにくいですが、時間や手間も立派なコストです。マーケティングでは、時間や情報探索の手間、心理的な負担などを「非金銭的コスト」として捉えます。

万博は、そのことを私たちに分かりやすく示してくれたように思います。

混雑を管理するためには予約が必要でした。しかし、予約を増やすほど利用者には「予約するための負担」が増えます。予約を導入すれば、必ず顧客満足度が上がるわけではありません。

予約によって減らせる不便と、予約によって新たに生まれる不便。その両方を考えなければいけないのです。

万博から考える「予約」の本質

大阪・関西万博の予約制度には、さまざまな評価があると思います。

デジタルを前提とした仕組みで良かったのか。電子機器に不慣れな人にとって大きな負担にならなかったか。もっと簡単に予約できなかったのか。そもそも、そこまで多くの予約が必要だったのか。

結果論として議論できることはいくらでもあります。

しかし、予約という視点から万博を振り返ると、もう少し大きなテーマが見えてきます。

予約とは、単に「席を確保するための仕組み」ではありません。需要を把握し、限られた供給能力を配分し、混雑をコントロールし、安全性を高める。つまり、限られた資源と需要を調整するための仕組みと言えそうです。

一方で、その調整を細かくするほど、顧客の自由度は小さくなります。好きな時間に行けず、好きなものを好きな順番で見られず、事前の計画を求められる。

そこに予約のジレンマがあります。

便利にするための予約が、かえって不便になる。
公平にするための予約が、「予約を取るのが上手な人」を有利にしてしまう。
混雑をなくすための予約が、「予約するための混雑」を生み出してしまう。

大阪・関西万博は、私たちが普段何気なく利用している「予約」という仕組みについて考える、巨大な社会実験でもあったのかもしれません。

今回の万博から「予約」を一言で表すなら、

「予約とは、未来の需要と限られた供給を、あらかじめ調整する仕組みである」

と言えそうです。

今後の連載では、レストラン、ホテル、病院、観光地、鉄道、イベントなど、社会のさまざまな「予約」を取り上げながら、マーケティングの視点から考えていきたいと思います。

読者の皆さまの予約に関する不満や、取り上げてもらいたいテーマがありましたら、ぜひ事務局にお寄せください。

追伸

ちなみに、中谷は学生たちと9月に万博に行ったのですが、人気パビリオンの抽選は全滅し、パビリオン予約なしで会場入りしました。
それでも大屋根リングを散歩し、会場の雰囲気を感じながら当日入れるパビリオンを見学するだけで、十分に万博を楽しめました。

注・出典

※1 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会「データから振り返る大阪・関西万博」

※2 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会「大阪・関西万博開幕まであと1か月!パビリオン・イベント予約の7日前抽選の申し込みが開始!」(2025年3月13日)

※3 大阪府「府政だよりNo.477(令和7年3月号)」(万博特集1)

※4 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会「11月30日(木)より2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の入場チケットの前売販売がいよいよ始まります!」(2023年11月29日)

※5 大阪府「令和7年(2025年)4月16日 知事記者会見内容」

※6 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会「パビリオン・イベント予約の最新状況について~お早めに来場予約して事前の観覧予約をご活用ください~」(2025年6月25日)

参考文献(学術的な補足)

●三村優美子(2006)「日本的サービス・マーケティングの革新―クオリティと人へのこだわり―」『マーケティングジャーナル』25巻4号。サービスの「消滅性」と、在庫できないことによる需要・供給調整の難しさを論じている。

●山岸真之・木見田康治・下村芳樹・新井民夫(2008)「非金銭的コスト分類に基づくサービス設計戦略の提案」2008年度人工知能学会全国大会(第22回)。時間的損失や心理的・身体的負担など、サービス利用時の非金銭的コストを扱う。

※Web資料の閲覧確認日:2026年8月27日

中谷淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

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