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コロナ時代における「予約」ビジネスの可能性(前編)

考察

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2020.06.15 2024.02.27
中谷 淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

INDEX

みなさん、こんにちは。

「予約についてアカデミックな観点からの連載を」と本連載を企画したのが本年2月でした。その当時と今では、新型コロナウイルスによって、世の中の見え方が一変してしまいました。

 

5月末の緊急事態宣言の解除により、日常生活が徐々に戻りつつありますが、当面は新型コロナウイルスと共存共生していくことが求められる状況です。

 

予約ラボ事務局から「新型コロナに関連する内容を」とのリクエストがあり、今回はウィズコロナ/アフターコロナ社会における「予約」ビジネスへの影響と今後について論じてみたいと思います。

コロナによって消えた予約

予約は、様々なビジネスにおいて取り入れられている仕組みであり、日常的に行われる消費者行動の一部です。

 

特に、航空機や新幹線などの交通機関、旅館やホテル、コンサートホールやスタジアムなどの施設、飲食店やエステなどのサービス業といった分野では、これまで当たり前のように予約という仕組みが取り入れられてきました。

 

新型コロナウイルスは、「これまで当たり前のように予約の仕組みが取り入れられてきた」分野において甚大な影響を与えました。

 

サービス供給量に制約(席数が決まっているなどが制約の1つです)があり、需要の変動に柔軟に対応することが簡単ではないビジネスでは、予約の仕組みが不可欠です。そして、それは特に需要が超過する場合に機能します。

 

例えば航空機では、年末年始やお盆などの時期に利用者が多くなっても、航空機の数、便数は簡単に増やすことができません。よって利用したい人は前もって希望する便を「予約」することになります。

 

このときの予約は、基本的に「早い者勝ち」のルールが適応され、直前になれば、どの便も満席となり予約はとれない状態になります。これが「需要が超過する場合に機能する」予約の仕組みです。

 

ところが、新型コロナウイルスにより、多くの業界で需要量が供給量を大幅に下回る状態に陥りました。

多くのイベントは中止・延期となり、外出自粛によって外食産業・一部小売業は大打撃を受けました。特に観光業における影響は甚大で、日本人の国内外旅行需要は激減し、今年度4000万人を超えるとも言われていた訪日外国人は「消滅した」といっても過言でない状態です。

 

需要がなくなることで、おのずと予約の必要はなくなります。新型コロナウイルスは、予約が当たり前であった業界の「予約」を消し去ってしまいました。

コロナによって生じる新たな予約

5月末に緊急事態宣言は解除されましたが、社会は新型コロナウイルス感染リスクと向き合いながら生活をしていく必要があります。

感染リスクと共生し経済活動を行うため、多くの業界でガイドラインが作成されています。その内容の基本は「三密を避ける」ところにあります。

各業界が三密を避けながら営業をすることは「予約」の必要性を高め、消費者全体の予約に対する需要は拡大していくと予測しています。

 

外出自粛にともない、真っ先に需要が拡大したのが「宅配」の分野です。

今回の新型コロナウイルスによる社会の変化に対応すべく、多くの飲食店が宅配サービスを開始しています。それにともない宅配を飲食店に代わり請け負うビジネス、「Uber eats」や「出前館」などは大きく業績を伸ばしているようです。

 

この「宅配」は「消費者側の需要を前もって供給側に伝える」ことであり、「予約」ととらえることができます。

これまで宅配というと、必要とする日に注文することが一般的でした。宅配専業としていない飲食店においては、いつ来るか分らない宅配注文に備えつつ、店舗営業と同時に対応することが難しくなるところも出てきます。

 

通常の店舗営業とともに宅配や持ち帰りに対応するためには、需要コントロールが必要になります。

事前に需要を確定させ店舗のスタッフ数や仕入れ量の最適化するために、当日予約ではなく、前日までにどれだけ宅配・持ち帰り予約を受けられるかが、ポイントになるのではと考えています。

 

また飲食店については、三密を避けるため席数を減らす店が多くなります。特に人気店などは、これまで以上に「予約なしで店舗に行っても入れない可能性」が高まります。となると、消費者は確実に店舗で食事をするために予約をしておく必要があります。

そして来店予約についても、これまでの時間と人数だけの予約ではなく「席の場所」という概念を取り入れる必要が生じるでしょう。

 

店内においては相対的に密になる場所と、疎となる場所が生じてきます。消費者側は安心を求め、同じ店内でも、換気の良い個室があれば、安心して食事ができ人気が高まることでしょう。

 

さらに、先日国土交通省による規制緩和で、歩道の一部を店舗が利用できることになりました。これにより、多くの店が店舗入り口付近にテラス席を設けることが可能となります。個室やテラス席など需要が高い席は「席料」を設定しても良いかもしれません。

旅館やホテルでは景観の良い部屋であれば宿泊費は高くなり、コンサートやイベントなどでは、良い席であれば料金が高くなることは一般的です。同様の考え方で、飲食店などでも、これまでになかった「席の価値に差をつけて予約を取る仕組み」が求められると考えられます。

 

少し長くなりましたので、一旦ここまでを前半として、「後半に続く」としたいと思います。

 

後編へ続く

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中谷淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

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