予約は未来の約束~ビジネスを成功させる理想の予約とは~(後編)
考察

INDEX
目次
予約は何を調整しているのか?
予約の「希望度合いを調整する」とは
-
星野
今の予約システムは、ユーザーの希望度合いが取れません。「月曜に予約したけれど本当は火曜日でもいい」みたいな融通がきかない。電話なら、「火曜日でもいいですよ」と言えるのですが、システムでは自動調節ができないという課題があります。 -
そうですね。予約というキーワードで学術論文を探すと、いかに融通をきかせたシステムを作るかという視点での研究があります。例えば、飛行機の席数が1時は2席、2時は3席、3時は4席あったとします。Aさんは別にいつでも良かったので、一番遅い時間でいいから4席空いている4時の便を予約します。すると残りは3席になります。次のお客さんがもし4人で乗りたかった場合、もう行けないですよね。つまり、機会損失しています。これを解決するためにどういうシステムが作れるかという研究があるんですよ。「融通予約システム」というらしいです。
中谷
-
星野
融通の起きるタイミングが多くないとメリットは出ないですね。融通をきかせれば詰め込める、つまり8割以上くらいの稼働でないとあまりメリットがない仕組みですよね。 -
広くやってしまうとメリットが薄いのかもしれませんが、範囲や対象を絞るとしたら、予約ビジネスの可能性を感じる部分ですね。
加藤
-
先ほども触れましたが、航空会社は早くに予約すると安く航空券が買える仕組みを取り入れています。旅館やホテルなどでも採用しています。経営学の言葉では「ダイナミックプライシング」といい、時間軸だけではなく、需要と供給のバランスで価格を柔軟に変えるという考え方です。これをより汎用的に、まだ使われていないような分野に啓蒙していくと、予約ビジネスはもっと広がるだろうと思います。
その時にはイールドマネジメント、つまり利益をどう最大化するのかを一緒に伝えていくことが大切ですよね。予約を取りたいからといって安売りしまくっていたら利益は取れないわけで、予約システムを活かしてビジネスを広げるのであれば、どうしたらよいか。飲食店ならどうか、小売店ならどうか、業種や業態に合わせていく研究はとしても実践的でおもしろいと思いますし、その辺りに踏み込んだシステムができ上がれば、もう一段階ユーザーが増えてくるのかなと思います。
中谷
-
普段から利用しているお店でも、事前予約することでお得になることがわかっていたら予約するかもしれませんね。
加藤
-
永田
例えばフィットネスクラブの会員がこれに近いのかもしれませんが、平日に比べて夜や休日に予約が集中するサービスなどは、同じサービス内容でも平日のほうが安いとか。 -
星野
同じサービスでも時間帯によって料金が変わることは、特定の業界では当たり前でも、それ以外の業界ではまだまだ浸透していませんね。事業者にとっては平準化につながるし、予約者にとってもお得にサービスを利用できるメリットがありますね。 -
星野
「順番待ち予約」についてもお話しさせてください。大手回転寿司チェーンは順番待ちが基本です。店舗では、ネット予約した人も、その場で順番待ちをしている人も同じ列に並んでいるように見えます。先に店舗で並んでいる人よりも先にネット予約をした人が呼ばれた場合、「あの人は事前に何かをやっているから、自分たちより早く行けるんだ」と分かる工夫ができていると、不公平感はないかもしれないですね。逆に何も理解できていない状態でネット予約した人が急に自分の前に入られると、かなり不公平感はありますが。その辺りは店舗オペレーションに落とし込めていない気がします。
-
あ、それ経験あります。事前予約していたので、店舗到着後にすぐに席に案内されたのですが、すでに 待っていた人から何か冷たい目線をあびせられて……。
中谷
-
星野
あの人はお金を払っているので先に行っているのね、というのが現場で他のお客さんに分かればいいんですけど、そこまで現場対応しきれていないことが多いですね。
例えば携帯ショップも、順番待ちとネット予約した人とで受付が分かれているところがありますよね。
-
永田
順番待ち予約はひとつの研究テーマとしておもしろそうなので、予約と順番についてはまたどこかの機会でやっていきたいですね。 -
先ほど、個人の「信用」の話しがありましたが、「信用」を含む消費者の情報がよりオープンになれば、事業者は予約を取りやすくなりますね。これができると、事業者側はお客さんを選べるようになる。今は選べないんですよね。
中谷
-
星野
そういう意味では、事業者側が取引する相手の優劣を明確に決めていない場合が多いんですよね。誰でもいいから来てください、という建前で。 -
信用に足るお客さんだけを相手にして収益を上げられれば理想的ですが、そうも言っていられないので、常に新規のお客さんもある程度取り込まなければいけない。新規のお客さんが信用に値するかどうかはわからないので、わざわざリスクがある予約を取る、というのは難しいところがありますね。飲食店などはリスクがあっても予約を取っていますが。
中谷
-
星野
会員じゃなければ予約できない、会員になると予約できるという仕組みもありますよね…。会員とは、事業者のリソースもしくはサービスを利用する権利を保有する約束を交わした存在であると。 -
それがもしうまくいけば、よりビジネスとしては安定するんでしょうけど、独自の会員システムはあまり効かなくなっている感じがします。選択肢がほかにあるんだったら、わざわざ面倒な会員登録するより、会員登録なしに簡単に予約できたほうがいいと消費者は考えますよね。独自会員制度が難しいのなら、他の会員サービスと提携するなど方法はありますが。
中谷
-
星野
フィットネスジムなどは年中、新規会員を募集していますよね。オープン時に新規会員を集めても、途中で辞める人が出てくる。そうしたらまた新規会員を集めておかないといけない。電車に例えると、乗っている電車がスカスカになったらまた新たな乗客が乗ってくる。予約も同じようなメカニズムで、会員として今回の電車に乗れる人、ということなのかもしれないですね。 -
設備系のサービスは、固定費が大きく、変動費が小さいので、その方法が適しますね。
一方、飲食店など、変動費率が高く、環境変化の影響が大きい業種はやはり苦しいですね。だから、1件でも多くの予約を取りたい。予約が取れていれば、不確定な状況が解消できるわけですからね。
中谷
-
星野
金融機関も同じようなことが言えますね。金融商品は、形がないから在庫を考えることなくいくらでも販売できる。だけど販売するためには相談を受けることが不可欠で、結局その相談のリソースを用意しておかないと、商品がいくらあっても売ることができない。と考えると、実は金融商品も有限な在庫なのかもしれないですね。 -
販売方法によるところもあるかと思いますが、対人が必要であれば、そのとおりですね。利益を最大化するために、リソース管理が大切というストーリーになりましょうか。
中谷
-
予約って、やっぱり面倒くさいんでしょうか。
加藤
-
星野
僕は面倒くさい派ですね。旅行はもう宿と移動手段だけしか予約したくないです。 -
永田
でも逆を言えば、絶対安心したいところは予約しているんですよね。 -
星野
それはしていますね。この店には絶対行きたいとか。 -
永田
それは、予約の効用というところですよね。効用が高ければ予約する。そんなに高くなければ予約しないという基本的なところに立ち戻ってしまいますが。
我々は予約システムの販売を通して、予約という現場に何かしら支援ができているつもりではいます。ですが、予約システムを使って世の中にどんな貢献をしているんだと聞かれたら、よく分からないという感覚を持っています。
「リソースを最適化」と言っても、実際に本当に理想的な形で運用できている現場はほぼありません。システムを利用している事業者も、実はまだはっきり見えていないのが実情ではと考えています。これを解明するのは結構ハードルが高いと感じます。その反面、そこに向かっていく意味があるのかなとも思いますね。
-
もう少し分かりやすいキャッチフレーズの方が良いかもしれないですよね。「予約を通じて企業の利益拡大に貢献します」とか「予約ビジネスで消費者と企業をハッピーにします」など、経営理念的な感じにはなりますが、そのくらいのキャッチフレーズがあっても良いかもしれないですよ。
中谷
-
永田
そこにハッピーがあるというのは何か良いですね。 -
信用というキーワードがあがりましたが、相互に信用しあえる間柄ってハッピーですよね。相手のことを信用しているから予約をするわけですもんね。あ、ここでは予約というより「約束」とした方がよいでしょうか。約束という言葉のほうが柔らかいかもしれませんね。
いずれにしても、予約が成立するってのは、ハッピーなことではないかと思います。
中谷
-
え、もう時間ですか?まとめになるような話しをするんですね。あれこれ話しが広がったので上手くまとめられるかな。
今日のディスカッションは、予約ラボでのこれからの探求テーマ探しということでは大変有意義でした。予約とはそもそもどういうことなのから始め、話に上がった、予約とインセンティブ、順番待ち、融通予約、業界ごとの動向などは、今後ラボで探求してコンテンツにしていきたいですね。今日は話題になりませんでしたが、消費者サイドに軸足を置いて、予約に関する実態や意識調査なども行っていければ、有益な情報発信ができるように思います。
そんな活動を通じて、予約ラボを日本で一番予約に関する情報が集まる場所にしていきたいですね。
「予約の可能性を探求して、消費者と企業をハッピーにしていこう!」
こんな感じでしょうか(笑)みなさん、本日はありがとうございました。今後もよろしくお願いいたします。
中谷
-
永田
はじめに予約の定義について何かアイディアが生まれればと思って参加しましたが、最後は「約束」という言葉にしっくりきました。リソースという視点では、通信技術の発達によってリソースの概念も変わってくるのでは?と思っています。この辺もまた別の機会にぜひ中谷先生とお話できればと思っています。本日はありがとうございました。 -
星野
今回は、学術、ビジネスマーケティング、予約の現場それぞれの視点から、ビジネスにおける予約の可能性について広くお話をさせていただきました。
今後の予約ラボの活動として、中谷先生にはアカデミックな視点で予約について連載をいただけるということで楽しみにしています。また、予約の現場では何が起きているかを掘り下げる調査や、顧客動向を引き続き行いながら、予約ラボ会員による研究などを行っていければと思っています。その際は加藤さん、永田さんよろしくお願いします(笑)。
皆様、長時間ありがとうございました!