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デジタルツインとは? 事例9選の紹介と製造業を中心に活用が進む背景やメリットなども解説

知る・学ぶ

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2023.11.10 2024.03.05
都市のビル群に走る閃光
浅川 仁

会社員時代はITソリューション系商社で営業職・企画職に従事。セキュリティ関連企業の営業中間管理職なども経験。旧司法試験が終了する前に記念受験するなど、法律好きだったりもする。ネットの可能性に目覚めたことから、その一環としてWebライティングを探求中。

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デジタルツインは近年、急速に注目を集めている技術で、事例も増えています。仮想空間で現実を再現できる技術ですが、デジタルツインそのものは以前からあった技術です。ここへきて製造業だけでなく、いろいろな分野でデジタルツインが注目されている背景は何なのか。この記事では事例9選の紹介とともに、そのワケやメリットなどを解説します。

※この記事は、「予約の知見」と「サービスの現場」を共創し、そこに眠る価値を発見・創造していく、日本で唯一の予約研究機関【予約ラボ】が監修を行っています

デジタルツインとは何かをおさらい

ビル群にクラウドのイメージアイコン

デジタルツインの英語表記である「Digital Twin」を直訳すると、デジタルの双子となります。双子のように現実とそっくりな仮想という意味が込められているネーミングです。

デジタルツインの定義

双子のように似ているというだけでは、具体的なイメージがわきにくいかもしれません。ここでは、デジタルツインとは何かについて、公的な定義ともいうべき総務省の説明を一部引用します。

現実空間の物体・状況を仮想空間上に「双子」のように再現したもの
引用元:総務省「令和5年版情報通信白書」

現実に存在する物や状況をそのまま現実世界で再現するには、同じだけの空間と素材などの構成要素が必要です。また、再現するための人的リソースやコスト、時間もかかります。

しかし、IoTやVR、AR、AIなど最新のデジタル技術を活用したデジタルツインであれば、インターネットにつながるさまざまな機器を通じて現実のデータを集め、バーチャルな空間上で容易に再現することが可能です。デジタルツインは製造業をはじめとして、あらゆる分野でのシミュレーションや評価、検討などに使用されています。

デジタルツインと似た技術との違い

仮想空間上に展開する状況といえば、デジタルツイン以外にも思い当たるものがあります。メタバースやシミュレーション、CPSなどです。似ているようで、それぞれに違いがあります。

  • メタバース
    仮想空間でさまざまな体験ができるメタバースは、大枠ではデジタルツインと似ているといえるでしょう。しかし、メタバースは現実の物体や状況を再現することを目的としたものではありません。メタは「超」であり、バースは「ユニバース」からとったもので、世界や宇宙を超えた空間であり、現実空間の再現ではない仮想空間がメタバースです。

メタバースでは自身がアバターとなり行動します。作られた3次元空間で現実から離れ、経済活動をはじめとする、さまざまな活動をできる点がメタバースの大きな魅力だといえるでしょう。

  • シミュレーション
    シミュレーションは物体や状況を再現する点でデジタルツインと似ています。しかし、シミュレーションは仮想空間だけで行われるものではありません。基本的に実物と同様の空間で行われるものであり、デジタル技術が前提となっているわけでもない点でデジタルツインとは異なります。

とはいえ、まったく無関係ということでもないのがデジタルツインとシミュレーションです。デジタルツインがシミュレーションに活用されているように、デジタルツインはシミュレーションの一種ということができます。仮想空間上でシミュレーションを行うデジタルツインは、スピードと正確性の点で現実空間におけるシミュレーションよりも優秀だといえるでしょう。

  • CPS
    CPSはCyber Physical Systemの略で、フィジカル空間(現実世界)のデータを収集し、サイバー空間(仮想世界)で分析などの処理を行い、現実世界にフィードバックする仕組み・技術です。

センサーネットワークなどを通じて現実世界のデータを収集・分析する部分は、そのままデジタルツインで行われていることと同じだといえるでしょう。しかし、デジタルツインは現実世界の再現に主眼が置かれているのに対し、CPSが最適化などのフィードバック、課題解決を目的としている点が大きな違いです。

いまデジタルツインが注目を集めるワケ

IOTの文字

デジタルツインが注目を集めている背景には、IoTなどの技術革新があります。

デジタルツインは古くからある

デジタルツインはインターネットよりも古くからある概念だといわれています。一説によれば、デジタルツインという言葉が現在の意味で使われたのは2002年のことです。NASA のジョン・ヴィッカーズ氏が最初で、その後に学者のマイケル・グリーブス氏によって広まったとされています。

2002年にはインターネットは普及しており、デジタルツインのほうが古いということにはなりません。

しかし、デジタルツインの概念自体はさらに古くからあり、アメリカのアポロ計画で1970年に発生したアポロ13号の遠隔修理のときに用いられたとする説が有力です。1960年代にNASA(アメリカ航空宇宙局)では、月面に送る物と同じ機材を地球で再現する手法を採っており、これがデジタルツインの先駆けといわれています。

当時、実際に使われたのは仮想空間ではなく現実空間における複製であり、厳密にはデジタルツインとは異なるものです。とはいえ、別の場所に再現し、シミュレーションに使うという概念としては共通していると考えられます。

このように、概念自体は古くから存在しており、現実空間で実施されていた一方で、当時は現在のように一般社会で注目を集めていたとまではいえないでしょう。

テクノロジーの進化でマッチする社会が到来

現実空間に再現する手法は現在のデジタルツインと比べれば、さまざまな点でハードルが高いといえます。テクノロジーが進化し、仮想現実のVRや拡張現実のAR、センサーネットワークで情報収集を加速させるIoTや作業効率や分析の精度を高めるAIが社会のあらゆる分野に浸透したこと、デジタルツインが進んで再現が身近なモノとなったことは間違いないでしょう。

急速なスピードでデジタルツインを活用しやすい環境が整ってきたことで、関心を寄せる企業や団体が増え、参考になる事例も蓄積されています。デジタルツインがマッチする社会の到来は、デジタルツインに注目が集まっている要因です。

デジタルツインに期待できることとできないこと

VIRTUALの文字が入ったキューブ

現実空間では容易ではない再現をスピーディーに実現するデジタルツインには大きな期待が寄せられている一方、デジタルツインにもできないことがあります。

仮想空間での製品開発が可能になる

デジタルツインが製造業を中心に広まっている理由として、仮想空間での製品開発が可能になることが挙げられます。製品の開発は試作と改良を重ねて行われますが、現実空間での試作と改良には大きなコストと時間、物理的な空間と人員が必要です。小規模な改良であれば、使用済みの資源を有効活用できるかもしれませんが、そうでなければ試作の回数だけまるまるコスト、リソースがかかります。

デジタルツインはあくまでも仮想空間での再現であり、必要なコスト、リソースはその範囲にとどまるため、試作にかかる時間やヒト・モノ・カネをすべて大幅に抑えることが可能です。開発期間の制約はあるにしても、その他の負担を気にせずに何度でも試行でき、その結果として高品質な製品づくりができます。

AIによる効率的な業務推進

デジタルツインではIoTで収集・取得したデータをAIによる高度な解析にかけることで、スピーディに詳細な情報をつかむことが可能です。たとえば、事前にシステムや部品の寿命・故障の時期を予測・把握してロスのない対応が可能になります。人力による作業とは比較にならないスピードと正確性が、製造業だけにとどまらない効率のよい業務推進につながる要因です。

遠隔地の作業にも楽々対応できる

遠隔地の拠点・現場で行われている作業の状態を確認するには、従来であれば現地へ赴く必要がありました。しかし、デジタルツインを活用することで出向くことなく居ながらにして楽に対応できます。VRとARの技術を駆使することにより、現場の様子をリアルタイムでしっかりと把握して必要な対応をとることが可能です。また、デジタルツインなら複数の遠隔地にある現場を1人で確認することも難しくありません。その積み重ねで技術の伝承も効果的に進みます。

ユーザーサポートの高品質化

商品の開発・製造だけでなく、ユーザーの手に渡った後のデジタルツインによって、ユーザーサポートの品質を高めることができます。ユーザーの使用状況をデータとして収集し、より満足してもらえる活用法やサポートへの提案・誘導を行うことで、顧客満足度の上昇も見込めるでしょう。

また、蓄積されたデータの分析により、さらに喜ばれる新製品の開発も可能です。製造業であってもよい製品を製造して送り出していればよい時代は終わったといえることから、ユーザーのフォローは欠かせなくなっており、デジタルツインを活用する場はますます増えると考えられます。

デジタルツインですべてがカバーできるわけではない

デジタルツインはあくまでも「仮想空間上に現実空間との双子を作る」ための技術であり仕組みです。監視や予測はできても、その結果をどう活かすかは人間の判断が入ります。的確な判断を下すには、十分なデータで再現された双子が必要です。

また、再現すべき場面を考えたとき、必ずしも自社の環境にデジタルツインが適しているとは限らない可能性があること、デジタルツインには、IoTの用意など相当なイニシャルコストが必要になる可能性がある点にも注意が必要です。

デジタルツインの事例~製造業

ものづくりと書いた吹き出しを持つ作業服のビジネスパーソン

デジタルツインが実際にどのように活用されているかについて、代表的な業種である製造業の事例を紹介します。

ダイキン工業

ダイキン工業では、2018年に新しくなった堺製作所臨海工場において、デジタルツインを活用した「止まらない工場」を2020年から稼働させています。新しい生産管理システムでは、作業の遅れを予測してアラートを表示するほか、ラインの進捗や設備の状況、作業にあたる従業員のスキルといった情報の確認まで可能です。ダイキン工業の見込みによると、デジタルツインの活用で削減できる時間・コストの無駄は、前年比で3割強となっています。

出典:日経クロステック「ダイキンが工場の『デジタルツイン』、製造ラインの停滞予測しロス3割強減へ」

旭化成

旭化成では「デジタル×共創」によるビジネス変革と題して、DXを推進しています。デジタル導入期、展開期、創造期、ノーマル期と段階を設けており、デジタルツインが採用されているのは導入期です。福島県の水素製造プラントで、2021年よりベテラン技術者の不在に対応する遠隔監視、高度な保守保全などを行っています。将来的には海外拠点の遠隔支援も考えているようです。

また、旭化成では作業員の動きをデジタルツインでデータ収集し解析することで、負担軽減を図っています。

出典:日経クロステック「旭化成の水素製造プラントで『デジタルツイン』、ベテランが異常対応をどこでも支援」

トヨタ自動車

トヨタ自動車では貞宝工場の生産性向上にデジタルツインを活用しています。3Dモデル上での改善を現場に反映しており、その成果はリードタイム1/3と生産性3倍という大きなものです。

さらに、トヨタ自動車では静岡県裾野市の自社工場「ものづくり」跡地にウーブン・シティ(Woven City)を建設しています。ウーブン・シティは実証実験のためのスマートシティで、デジタルツインの活用が注目されています。ウーブン・シティの完成は2024年で、試験は2025年から始まる予定です。

出典:トヨタ自動車株式会社「未来を支えるモノづくり技術」

出典:TOYOTA WOVEN CITY

デジタルツインの事例~行政府・都市

マーライオン

デジタルツインは行政府や都市においても活用されています。国内外の事例を紹介しましょう。

シンガポール

東南アジアの国シンガポール共和国では、「バーチャル・シンガポール」として国をまるごと3D化し、デジタルツインで国民生活にとってマイナスとなっている交通渋滞や無駄な工事などの問題解決を目指しています。

シンガポールは人口が約564万人(外務省2022年のデータ)で、東京23区よりも少し広い程度の国土をもつ都市国家です。デジタルツインを活用した国の変革モデルとしてピッタリといえるかもしれません。

出典:国土交通省「スマートシティとこれからのデータプラットフォーム構築の課題」

出典:外務省「シンガポール共和国基礎データ」

国土交通省

日本でも国土交通省の主導による「PLATEAU(プラトー)」が展開されています。PLATEAUは3D都市モデルを整備し、オープンデータ化して活用を可能にするプロジェクトです。新たなイノベーションを起こし、まちづくりにおけるDXの推進を狙っています。PLATEAUのロードマップでは2022年に、より精緻なデジタルツインの構築が記されており、今後の進展が期待されるところです。

PLATEAUのパートナーには、NTTドコモや東急、日建設計、NEC、JR東日本、ソフトバンク、九州工業大学などさまざまな分野の企業・団体が多数加わり連携しています。

出典:国土交通省「PLATEAU」

宇都宮市

栃木県宇都宮市では、2019年に「未来都市うつのみや」を目指すことを、Uスマート推進協議会として提案しています。スマートシティ宇都宮では、デジタルツイン都市モデルとしてビッグデータの収集・シミュレーションによるLTRなどの公共交通機関の利便性向上や、行政サービスの円滑な利用・提供などが実現可能です。

Uスマート推進協議会のメンバーは、宇都宮市、宇都宮大学、早稲田大学、KDDI、NEC、関東自動車、東京ガスと宇都宮ライトレールです。

出典:国土交通省「『未来都市うつのみや』を目指して」(PDFファイル)

デジタルツインの事例~その他

水田

その他の業種におけるデジタルツインの事例を紹介します。

鹿島建設

鹿島建設では、BIM(Building Information Modeling)を活用した「鹿島スマート生産」を推進しています。BIMとは、3Dモデル上で建築物のあらゆるデータを維持管理まで含めて活用し効率化するワークフローです。BIM推進の関連事業でもあるオービック御堂筋ビルの新築工事(2017年~2020年)では、企画・設計~施行~維持管理・運営と進むビルのライフサイクル全般にわたるデジタルツインを実現しています。

出典:鹿島建設株式会社「日本初!建物の全てのフェーズでBIMによる『デジタルツイン』を実現」

日本総研

日本総合研究所では、人生100年時代といわれる現在、そして将来の高齢社会に対し、高齢者が充実した老後を暮らすための基盤づくりとなるデジタルツイン「subMEサービス」を提供しています。subMEサービスの特徴は、一覧表で示されるようなメリットではなく、仮想空間にいる双子の兄弟とも呼ぶべき分身、もう1人の自分と対話することです。対話によって老後を暮らす自分にとって意味のあることを見出します。

また、外部との有意義なつながりを確保するプラットフォームが用意されているなど、現実空間と仮想空間とが自然に一体化することで、利用者の意思決定の支援や市場の構築が可能です。

出典:日本経済新聞「日本総研、subMEサービスの実現・事業化を目的に『CONNECTED SENIORS コンソーシアム2019』を設立」

NTT西日本など8団体

NTT西日本など8団体は、農業生態系の解明・農業のデジタルツインの共同研究に取り組んでいます。化学肥料や農薬の使用による土壌汚染などの環境破壊が問題となっていながらも、環境再生型農業の持続性への疑問から従来型の農業からの転換が難しいことに鑑み、土壌微生物にフォーカスすることで、自然に配慮した農業を目指すためです。

NTT西日本のほかには、北海道大学、福島大学、筑波大学、東京大学、理化学研究所、前川総合研究所と環境農林水産総合研究所といった研究機関が参加しています。

出典:NTT西日本「ネイチャーポジティブな環境再生型農業の実現に向けて農業のデジタルツインに関するオープンイノベーションでの共同研究を開始~果樹の土壌微生物叢に着目した農業生態系の解明~」

今後が期待されるデジタルツイン

仮想空間たつ建物

デジタルツインは本格的な活用時期に入ったばかりといえる状況で、今後が期待されています。期待される重要ポイントは2つです。

一企業の枠にとらわれない活用

デジタルツインは個別の企業・団体が、自社の業務効率の改善を目的として活用できる技術であると同時に、一企業の枠にとどまらず、社会へ貢献する技術としての活用が期待されています。たとえば、CO2の排出量を削減したり、社会的な脅威となる災害やサイバー犯罪対策などは個別企業の動きだけでは効果を上げることは難しく、オープンなデジタルツインが求められる領域です。

あらゆる分野での実装が期待されるデジタルツイン

製造業向けの技術かと思われるほど製造業と相性がよいデジタルツインですが、実は業種・業界にかかわらず活用できる技術であることが浸透しています。その一例が、NTT西日本などの共同研究のように、農家の効率にも関わると同時に、地球規模の環境に配慮したデジタルツインの活用法です。

デジタルツインの有効性があらゆる分野に拡散されることで、社会が大きく変革し発展する可能性を秘めている点も、デジタルツインの実装に大きな期待が寄せられている要因だといえるでしょう。

他社が取り組む事例を参考にデジタルツインの活用を検討しよう

デジタルツインは構築するまでが大変な部分こそあるものの、構築してしまえば業務効率のアップや技術の伝承が容易になる可能性が大きいといえます。今後はより多くの産業、分野に広がりを見せると予測されており、期待大といえる状況です。

ただし、業種や活用する現場によってデジタルツインの中身は異なります。自社のデジタルツインに取り組むなら、同業種や同じような現場の事例が参考になります。自社サイトでデジタルツインの取り組みを公表している企業も多いようです。しっかりご覧になって活用を検討しましょう。

浅川仁

会社員時代はITソリューション系商社で営業職・企画職に従事。セキュリティ関連企業の営業中間管理職なども経験。旧司法試験が終了する前に記念受験するなど、法律好きだったりもする。ネットの可能性に目覚めたことから、その一環としてWebライティングを探求中。

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