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早くに予約する消費者の満足度は高い?(予約に関する文献レビュー③)

考察

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2021.09.09 2022.03.14
中谷 淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

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みなさん、こんにちは。 気がつけば9月、また前回コラムから月日をあけてしまいました。ごめんなさい。

予約ラボのコンセプトは「予約を科学する」であり、様々な視点から予約を探求し、本コラム以外にも様々なコンテンツが発信されています。

最近、予約ラボのサイトがリニューアルされ、本コラムは「考察」という独立カテゴリーを頂きました。今後は開店休業中とならないよう、定期的に予約に関する「考察」をコンテンツにしていきたいと思います。

今回紹介する論文は、アメリカの学術雑誌「Journal of Marketing Research」に2014年に掲載された「A Joint Examination of Quality Choice and Satisfaction: The Impact of Circumstantial Variables」です。

翻訳ソフトでタイトルを日本語訳してみると「品質選択と満足度の共同検討。情況変数の影響について」となるのですが、多くの方にとって「ナンノコッチャ?」ですよね。自分も「ナンノコッチャ?」のほうですが読んでみたら、「これは紹介せねば!」となりました。

早くに予約する消費者の満足度は高い?

まずは本論文の概要から。

本論文では、宿泊予約サイトのデータを用いて、ホテル予約時の品質選択・決定と実際のホテル滞在に対する満足度の両方に影響する3つの要素と、その影響を既存の経済モデルを用いて明らかにしています。

本論文によると、品質選択・決定と満足度に影響する3つの要素は以下の3つとされています。

  1. 予約から実際の宿泊までの期間
  2. 予約したホテルの距離
  3. 予約時間(勤務時間中/勤務時間外)

また、一般的な経済モデルを用いて、以下の3つの傾向があることを明らかにしています。

  1. 業務時間中にホテルを予約する消費者、より質の高いホテルを選択する傾向にあるが、満足度が低くなる傾向にある
  2. 同様に、近場より遠方のホテルを予約する消費者は、より質の高いホテルを選択する傾向にあるが、満足度は低くなる傾向にある
  3. 早めに予約する消費者は、より質の高いホテルを選択する傾向があり、満足度も高くなる傾向にある

予約から宿泊までの期間や、予約するホテルの距離や予約する時間帯で満足度に違いが出るという結論は大変興味深い結果ですよね。

分析に利用したデータは、実在する宿泊予約サイト(Priceline.comやExpedia)経由で、2008年1月から2009年10月の間にホテルを予約された5,093回の旅行、4,582人の消費者データを用いています。さらに分析対象を個人旅行とするために、旅行が週末か祝日に行われたものに限定しています。

全ての予約が予約時点でクレジットカード決済され、予約日から宿泊までの期間、登録郵便番号から予約したホテルまでの物理的距離を情報として取得しています。

予約したのが勤務時間中か勤務時間外かは、多くの人が平日の午前9時から午後5時まで働いていることから、この時間中に予約されたものは「勤務時間中の予約」とし、それ以外は勤務時間外としています。さらに、消費者の収入がホテルの選択に影響を与える可能性があるため、本研究では、一般公開されている収入情報として消費者の居住地域平均所得も利用しています。

以上のデータを経済モデルに当てはめ分析し上記の結論に至っています。本コラムでは細かな計算式等の説明は割愛し、上記結果について予約ビジネスに示唆のある内容を紹介したいと思います。

勤務時間中にホテルを予約すると質の高いホテルを選択する傾向がある

この結論の理論的根拠は推測の域であると論文筆者は述べていますが、自己規制に関する研究で資源の枯渇が人の意思決定に影響することが示されていることを根拠の1つとして提示しています。

例えば、資源枯渇の意思決定への影響として、レストランにおいて空腹の時(資源の枯渇状態)には高価なメニューを選択する可能性が高いといった研究結果があるそうですが、これと同様のことが、勤務時間中のホテル予約でも発生しているのです。

つまり、勤務時間中は、十分な時間や心の余裕がない状態(資源の枯渇)にあり、ホテルを選択すると質の高い(高価な)ホテルを選択する可能性が高いということです。

また、別の視点からも説明を試みています。勤務時間中はプライベートな時間に比べ、休暇に対する効用(=欲求)が高くなり、相対的にホテルの質に重きをおくことになり、質の高いホテルを選択すると考えられるとのことです。

この結果から、消費者に質の高い(価格の高い)ホテルを選択してもらいたければ、勤務時間中に予約をしてもらえば良いとなりますが、その場合、満足度は比較的低くなる傾向があるという結果が出ていますので、安易に実務に活用するわけにはいかなそうですね。

遠方のホテルを予約する場合、近場に比べ質の高いホテルを選択する傾向にある

さらに経済モデルによる分析から、近場のホテルよりも、遠方のホテルを予約する方が「質の高いホテルを予約する傾向がある」ことが導き出されています。

近場への旅行は、ある程度心理的距離も近く、また当地のことをよく知っている可能性があるため、質が高いホテルでなくとも良いと考え、一方で、遠方への旅行は当地のこともよく分からず、保険的に良いホテルを選択しようという心理が働くなど、いくつかの理論的根拠が挙げられていますが、十分な検証には至らず説明力のある論拠は導き出せていません(つまり、経済モデルでは示されるが、それが何故かという論拠までは明確になっていないということです)。

ただ、遠方への旅行であれば、相応に時間もお金もかかるわけですから、折角なのだからと質の高いホテルを予約するというのは、経験則的にも納得感はありますよね。

国内の宿泊予約サイトの予約データが入手できるのであれば、日本の場合として検証もできるように思います。今後の研究テーマとしておきたいと思います。

勤務中の予約、遠方のホテルを予約の場合、ホテルに不満を持つ可能性が高い

これも経済モデルからは有意な結果となっていますが、この理由は、「勤務時間中の予約」「遠方の予約」のいずれも質の高い選択をする傾向があるため、期待を下回ると不満を持つ、つまり満足度が低くなると想定されます。

しかし、こちらも十分な検証には至っていません。研究では今回の分析データが、全て予約時に決済をしている点に注目しています。

予約時に支払いを済ませているため、支払いから時間が経過するほどに、その支払った「痛み」は薄れていくのですが、ホテルの実際の品質が期待を下回ると、消費者は支払った「高い」価格を思い出してしまうため、満足度が低下するとしています(予約段階で、質の高い(価格の高い)ホテルを選択する傾向があるため期待値があがっている可能性もあります)。

同じサービスを提供しても、予約段階の条件により消費者が不満を持つ可能性がある。すなわち、顧客満足度についてホテル側ではどうにもならない要素があるというのは、大変示唆のある研究結果であるかと思います。

これも是非日本の場合で再試験してみたいテーマですね。

早めに予約する消費者は、より質の高いホテルを選択する傾向があり、満足度も高くなる傾向にある

こちらも残念ながら経済モデルでは明らかになっていますが、十分な論拠が検証されていません。

論文内では、計画的な人ほど、旅行に際して早めに予約をし、質を重視する傾向があるとされています。旅行に対する計画もしっかりしていて、旅行に対して満足するとのことです。

これに対して、衝動的な人は直前になるまで予約をせず、質を重視しないといった仮説や、早めに予約することにより、相対的に安価に質の高いホテルを予約できるといった仮説が挙げられています。経験則的には納得感があるところですが、この仮説を支持するだけの検証結果が得られず、今後の課題としています。

ただ、経済モデルから明らかになった結果であるので、宿泊予約サイトやホテル・旅館は、消費者に対し、早期に予約を促す、早期に旅行を計画してもらうことが顧客満足度につながる可能性が大いにあるということで、実務に活かしていく価値はありそうです。

消費者の選択や満足度に影響を与える要素は、今回取り扱っている予約タイミング、距離、時間以外にもあり、経済モデルで導いた結論に対し理論的根拠まで明らかに出来ていない点もあります。

しかし、明らかにされた「ホテルを予約する状況、タイミング、距離が、選択するホテルの質と満足度に影響を及ぼす」という結論は、一定の価値があるものと思います。

本研究結果を念頭に、引き続き予約を探求していきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【参考文献】 Zhang, Wei and Ajay Kalra (2014) “A Joint Examination of Quality Choice and Satisfaction: The Impact of Circumstantial Variables,” Journal of Marketing Research, 51(4), 448-462.

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中谷淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

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