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オーバーツーリズム事例を紹介|観光地が直面する問題と対策

知る・学ぶ

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2023.12.22
考え込むビジネスマン
こしけん

2013年にフリーランスとしてライター活動を開始。2016年からは、多数のライターをサポートする制作ディレクターとしても活動中。会社勤めからフリーランスのライターへ転身したのは、もともと文章で何かをかみくだいて伝えることが好きだったから。読者が何を知りたいのか? どのように知りたいのか? を第一に考えるよう意識しています。

INDEX

観光地にとって、国内・海外問わず様々な地域から観光客が流入することは、一般的に考えてありがたい状況だといえるでしょう。しかし実は、許容以上の大きな流入があった場合に問題が発生するケースもあります。

コロナウイルスの問題が落ち着きを見せ始めた昨今、あらためて差し迫る課題として注目を集めている、この「オーバーツーリズム」について、実状や各地での対策の動き、取り組み事例などを解説します。

※この記事は、「予約の知見」と「サービスの現場」を共創し、そこに眠る価値を発見・創造していく、日本で唯一の予約研究機関【予約ラボ】が監修を行っています

目次

「オーバーツーリズム」とは?

観光イメージの人形

オーバーツーリズムは「Over(許容範囲を超えた)」「Tourism(観光)」という英単語から成る言葉で、観光地にとっての許容量を大きく超える観光流入が起こる現象、およびそのことによる様々な影響(主に観光地にとって負となる影響)を指しています。

オーバーツーリズムは「観光公害」とも呼ばれ、特に観光地の資源価値や地域の住民にとって大きな問題へつながってしまうことも少なくありません。

オーバーツーリズムが発生する要因

考え込むビジネスパーソン

そもそも観光地として、ながらく人気を集めている地域やその地域の行政団体にとっては、他地域からの観光客の流入はすなわち地域振興や経済活性化の源であり、流入を見越して受け入れ態勢を整えているはずでは? と疑問に感じられるかたもいらっしゃるかもしれません。
「許容量を大きく超える観光流入」という事態は、どういった理由で起こってしまうのでしょうか。

低価格旅行の普及

近年、効率化やサービスの簡素化などによって低い運航費用を実現する格安航空会社、いわゆるローコストキャリア(LLC)の台頭がめざましくあります。
ちなみに従来型の、例えば国内でいうところの日本航空(JAL)や全日本空輸(ANA)といった、高品質なサービスを主眼とすることにより運航費用も従来どおり維持されている航空会社は、LLCに対する呼称として「フルサービスキャリア」「レガシーキャリア」などともいわれています。

LLCの普及で移動費を抑えられ、かつ民泊サービスの普及で旅行地に長期滞在することの負担も小さくなったことにより、ひと昔まえよりも格安に遠方まで旅行できるという状況があります。
こういったことから、これまでは二の足を踏んでいた人々も気軽に旅行できるようになり、観光地の許容を大きく超える流入になっているという考え方があります。

インバウンド自体の増加

国土交通省観光庁が公開している統計情報(※1)によると、今からおよそ10年ほどまえの2013年ごろから、2019年にいたるまでにインバウンド(訪日外国人旅行者数)が飛躍的に増加したという状況がありました。
さかのぼって2005年から2012年までの7年間は、インバウンドに年ごとの多少の増減はみられたものの、600万人~800万人の間におさまっていました。
しかし2013年以降は右肩上がりでインバウンドが急増し、2015年はおよそ1,974万人、2019年はおよそ3,188万人もの外国の方々が、日本へ旅行目的で訪れていたのです。

尚、同じ統計情報において、2020年にはおよそ412万人にまで急激に減り、さらに2021年にはおよそ25万人にまでいっきに落ち込むことで、インバウンドの増加傾向は一旦の収束をみせています。これは新型コロナウイルス感染症の世界的なまん延・被害拡大を受け、措置として各国で海外旅行の規制や入国制限の動きが広まった時期となります。

以後、2023年現在までにかけて次第に新型コロナウイルス感染症の被害状況が落ち着きをみせ、日本を含めた各国で海外旅行規制の緩和、入国制限の撤廃が広まっています。
国内旅行者数、海外からのインバウンド数ともにコロナ禍以前の水準に戻りつつあることから、各観光地でのオーバーツーリズムもふたたび目立ち始めています。

※1 出典:国土交通省観光庁「訪日外国人旅行者数・出国日本人数」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/in_out.html

SNSなど個人発信力の高まり

観光地にとって、他地域や外国から観光客が訪れることは本来よろこばしい状況であるため、行政団体自体が積極的に、地域の魅力を現在も発信しています。
しかし、こういった地域みずからの発信は旧来からの既存メディアと地元が連携したうえでの、比較的万全な体制での発信であるのに対し、現代ではSNSの利用が一般的になったことによって、個人の発信でも様々な地方の魅力が自由に発信されるようになっています。またその発信の影響力も、若い世代を中心に、とても大きいものとなっています。

こういった状況はもちろんよい面もあると同時に、例えば受け入れ体制が整っていないような過疎地にもなにかのきっかけで急激に観光者が集中するようなことが起こり得ると考えられています。

オーバーツーリズムは何が問題視されている?

ポイ捨てを注意喚起する看板

地域の想定や許容量を大きく超える観光流入、つまりオーバーリズムが起こると、具体的にどのような問題が起こっているのでしょうか。

地域環境の悪化

具体的には、交通渋滞、各施設の混雑、人が多いことでの騒音、無断駐車、ゴミの不法投棄、立ち入り禁止区域への侵入や文化財の損傷といったトラブル例が報告されています。

こういった問題は、そもそも観光地では旧来からしばしば見られていた問題ではありますが、オーバーツーリズムによる受け入れ体制を超える規模の観光者急増によって、地域が対応しきれずさらに状況が悪化している、という状況があります。

観光資源価値の低下

前述の問題、およびそれに対応しきれない状況により、本来あったはずの観光資源価値が維持しきれなくなってしまう、著しく低下してしまうという懸念がもたれています。

地域経済への悪影響

観光流入は旅行者による消費も期待でき、本来であれば地域経済へよい影響を与えるものですが、前述した問題に関連して、地域住民の日常生活や自然環境への悪影響がもたらされると、本末転倒で地域経済へ打撃を与えてしまいかねないと危惧されています。

オーバーツーリズム深刻化の事例

拒否する地元住民のイメージ

実際に国内や海外で、オーバーツーリズムが深刻化したケースが報告されています。
いくつかの実際の事例を見ていきましょう。

【日本】京都府:混雑やゴミのポイ捨て、騒音が問題視

日本を代表する観光地のひとつであり、海外からの人気も大変高い京都府では、2020年に掲げていた目標である「観光消費額1兆円」を4年も前倒しで達成するなど、近年でも観光流入による好影響を経済効果の面で得ています。

しかし人気の高さゆえに、オーバーツーリズムといえる事態がたびたび起こっており、特に人気の高いエリアである古都の街並みや寺社仏閣では「どこを歩いても人ばかり」という状況がみられています。
大勢いる観光客のなかには、残念ながらゴミのポイ捨て、トイレの使い方が汚い、地域住民が寝静まる時間帯にも騒音を出すなど、京都の観光資源としての雰囲気にそぐわない行為をする人々もみられ、地域の美しさが損なわれているという声もあがっています。

また、特に京都市内では地域住民も通勤や生活で日常的に利用している電車やバスなどの公共交通機関が、著しい混雑により正常に利用できないほどの時期も生じています。

【日本】沖縄県宮古島:地元住民が利用できなくなるほどの公共交通混雑など

京都と同様に観光地として人気の高い宮古島でも、オーバーツーリズムによる問題が深刻化しているという声があがっています。
特に今後10年で宮古島市が想定している流入がオーバーツーリズムを加速させるとの見方もあり、また現状でもバスやタクシーなどの二次交通不足、商業施設の著しい混雑、ゴミのポイ捨てなどの問題を抱えていると報告されています。

【日本】富士山:文化遺産としての価値低下への懸念

日本一の標高を誇る富士山でも、観光客の過度な集中によってゴミ投棄などマナー違反の増加や、無理な登山を決行したことによる遭難事案の増加など、様々な問題が報告されています。

【海外】バルセロナ:環境悪化により地元住民の「観光反対デモ」発生

スペインで最も多くの観光客が訪れる地として知られるバルセロナでは、海岸を訪れる一部の観光客が泥酔したり著しい騒音を発するなどの状況が続き、過去には地元住民の不満が高まった末、観光客に対する「観光反対デモ」が数日にわたり実施されています。

【海外】アムステルダム:一部観光客の薬物乱用など反社会的行為が問題に

人口92万人ほどの都市に、年間およそ2,000万人もの観光客が訪れるともいわれるオランダのアムステルダムでも、地元住民による観光客のマナー違反に対する不満が高まっています。
「立ち小便をしないでください」「私たちはここに住んでいます」などと書かれた抗議の看板が地域民によりそこかしこに設置されるなど、オーバーツーリズムの深刻化が伺える状況にあります。

国土交通省・観光庁の取り組み「持続可能な観光」

旅行中の二人

ここまでご紹介したようなオーバーツーリズムの問題を受け、諸外国や日本国内でも「サステナブル・ツーリズム」「持続可能な観光」という考え方、および取り組みが広まっています。
これはそもそも2015年に国連総会で採択された「SDGs(持続可能な開発のための17の国際目標)」の流れを汲んだ考え方のひとつであり、コロナ過が落ち着きを見せ始めた現在において、いまいちど観光産業のなかで持続可能な観光を重視・推進する動きが活発化しているのです。

日本では、国土交通省観光庁が「持続可能な観光」について政策を推し進めています。
『「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくり』を目標に掲げ、主となる以下3つの取り組みを公表していますので、チェックしておきましょう。

・持続可能な観光ガイドラインの開発と導入モデル事業
・マナー啓発に関する国内外での発信
・先進事例等の整理・周知
   出典:国土交通省観光庁『「持続可能な観光」の取組』
   https://www.mlit.go.jp/kankocho/jizokukanou.html

ガイドラインについて詳しくは、引き続き国土交通省観光庁の発信情報となりますが、以下資料などで閲覧できますのでご興味のある方はぜひ確認してみてください。

▼国土交通省観光庁「自治体や観光地域づくり法人(DMO)等における効果的で持続可能な観光地マネジメントの推進へ!~「日本版持続可能な観光ガイドライン」を取りまとめました~』
https://www.mlit.go.jp/kankocho/topics08_000148.html

▼国土交通省観光庁「持続可能な観光推進モデル事業(PDFファイル)」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001620436.pdf

様々な観光地でのオーバーツーリズム対策

京都の街並み

オーバーツーリズム発生の事例がある各地域にて、地域住民の不満増大や観光資源価値低下を避けるために、様々な取り組みが行われています。

一例として、以下にいくつかの取り組み事例をご紹介します。

京都府:交通機関の利用分散推進やインフラ整備

観光客の増加による公共交通機関の著しい混雑が深刻化している京都府では、2010年以来総合的な街づくり、ライフスタイルの創生という大きな視野で「歩くまち・京都」をテーマに総合交通戦略を推進しています。

観光都市としての交通整備のみならず、環境に優しい公共交通ネットワークの発達、地域団体が主体となる住民ボランティアバスなど、企業立地や定住の促進までを包括的に踏まえた取り組みとなっています。

参考:「歩くまち・京都」総合交通戦略審議会『「歩くまち・京都」総合交通戦略の今後の方向性やその実現に向けた施策などについて(PDFファイル)』
https://www.city.kyoto.lg.jp/templates/shingikai_kekka/cmsfiles/contents/0000290/290269/03_siryou3_5.pdf

鎌倉市:交通機関への住民優先乗車を試験的に導入

厳かな寺社仏閣や奥ゆかしい街並みが魅力である鎌倉市では、以前より観光客の流入過多による交通ライフラインの混雑が問題視されていました。

近年では断続的、および試験的に、江ノ電沿線において地元住民の日常生活における電車利用を優先する取り組みとして「住民優先乗車」を実施しています。

参考:鎌倉市「江ノ電鎌倉駅西口改札における沿線住民等優先入場の社会実験について」
https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/koutsu/enodensocialexperiment.html

富士山:「富士山登山鉄道」の構想

コロナ禍の規制が緩和後、ふたたびオーバーツーリズムの問題が持ち上がっている富士山を擁する山梨県では、一5合目までのアクセスを鉄道に限定することで登山客を制限する「富士山登山鉄道」構想の具体化を進めています。

参考:山梨県「富士山登山鉄道構想」
https://www.pref.yamanashi.jp/fujisan-rw/fujisan_railway/fujisan_railway_top.html

ハワイ:地域コミュニティと観光客の相互理解を推進

海外の対策事例も、簡単にご紹介しておきます。

ハワイ州観光局(HTJ)では住民と訪問者双方の満足度向上をKPIとして掲げ、コロナ禍以後の地域密着型観光の再建を推し進めています。
各島の運営委員会が参画し、地域コミュニティとのコミュニケーションを深めることによって、「地域住民の、観光産業への理解と満足度の向上」と「ハワイ訪問者の、地域に対する満足度の向上」の両立を目指しています。

オランダ:地域住民の生活を尊重する「レジデンス・ファースト」

観光公害への取り組みに積極的なオランダでは、オランダ政府観光局(NBTC)が観光地のプロモーションよりも「管理」へ活動の比重を移すという心構えを公表しています。

観光客の増大で居住不能な状況とまでいわれるアムステルダムの問題を背景に、今後は単に多くの観光客を誘致することを目指すのではなく、個性があるエリアの開発推進や地域特性のプロモーションなどを進め、観光客の分散を目指しています。

「事前予約制」でのコントロールはオーバーツーリズム対策の一環に

アイデアを出す男女

本記事でご紹介したように、特に人気の高い観光地では、オーバーツーリズムによって期待以上の観光流入があり、地域環境が損なわれるなどの問題が起きています。
各地域の行政ももちろんただ黙って問題を見過ごしているわけではなく、地域ごとの対策検討が具体的に推し進められているほか、国土交通省主導による「持続可能な観光」の考えが広まっています。

行政単位ではなく、観光地や人気エリアに立地する個々の店舗や、観光サービスを提供している企業においても、オーバーツーリズムに備えてできることはないか? と検討しているご担当者がいらっしゃるかもしれません。

ここではご参考までに、観光サービスを予約制とすることで、道路や交通機関の混雑、地域住民の生活への支障を軽減できるというアイデアを掲載します。

ご検討の一助となりましたら幸いです。

予約管理システムなら観光地や施設の利用をかんたんに予約制へ

人気エリアの宿泊施設やレジャースポットにおいて「予約管理システム」を導入すると、施設やレジャーの利用を完全予約制にすることが可能です。観光客の来訪時期分散にも期待できます。
地域のオーバーツーリズム対策へ貢献できるだけでなく、自店舗・自社にとっても、流入の事前把握による人的コスト削減、在庫の最適化などの利点が得られるでしょう。

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地域の状況ごとに適切なオーバーツーリズム対策を

観光業界が深刻な打撃を受けた新型コロナウイルスの被害状況も落ち着きを見せ始め、再び2019年以前のような観光流入が期待されていると同時に、各観光地でのオーバーツーリズムへの懸念も持ち上がっています。
地域住民の声、観光資源の状況などが影響することから、各地域ごとに適した対策をとることが必要となってくるでしょう。

本記事でご紹介した事例をご参考に、オーバーツーリズムへの対策としてできることを検討してみてください。

こしけん

2013年にフリーランスとしてライター活動を開始。2016年からは、多数のライターをサポートする制作ディレクターとしても活動中。会社勤めからフリーランスのライターへ転身したのは、もともと文章で何かをかみくだいて伝えることが好きだったから。読者が何を知りたいのか? どのように知りたいのか? を第一に考えるよう意識しています。

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