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コロナ禍におけるダイナミックプライシング(変動価格制)の活用

考察

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2020.08.04 2021.11.17
中谷 淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

INDEX

注目されるダイナミックプライシング

7月上旬、JR東日本が「時間帯別変動運賃」を検討していくとの方針を発表しました。

会見で、JR東日本の深沢社長は「コロナ以前には戻らない。長期的に経営が成り立つようコストやダイヤ、運賃を見直す」と述べています。

この、需要に応じて価格を変動させることを「ダイナミックプライシング(価格変動制)」と言います。

航空チケットやホテル・旅館などが繁忙期に高くなり、閑散期は安くなるのはダイナミックプライシングの代表例です。

他にも、電気料金や高速道路の夜間割引やテーマパークなどの平日料金と休日料金の設定なども、同様にダイナミックプライシングの導入例ですね。

さらに近年では、プロ野球やJリーグなどのスポーツ観戦チケットや、コンサートのチケットなどでも導入事例があります。

JR東日本のニュースにより、にわかに注目を集めましたが、既に多くの業種業界で活用されている手法であると言えます。

鉄道業界においても、これまでも特急券などは需要に応じて価格を変動させてきた実績はありますが、これを乗車券にまで広げようという試みです。

新型コロナウイルス感染症の影響により、需要が大きく落ち込んでいる他の業種業界でも活用が模索されています。

ダイナミックプライシングが適するビジネスと適さないビジネス

ダイナミックプライシングの本質的な目的は「利益の最大化」にあり、その活用は「需要増に対して原価が大きく増加しない、変動費が小さいビジネス」で適していることに留意が必要です。

例えば、航空機が1度のフライトでかかるコストは、乗客が1名でも100名でも大きく変化しません。となれば、1人でも多くの乗客を乗せた方が利益は上がるので、閑散期や早めの予約であれば航空券を安くします。

夜間料金や平日料金が、日中や土日・祝祭日より安く設定されるのは、需要が少ない平日や夜間に1人でも多くのお客さんに利用してもらうことが目的です。

比較的変動費が少ないビジネスであれば、ダイナミックプライシングを積極的に活用していくべきでしょう。

美容院やエステ、マッサージ店など人件費が固定されているビジネスや、美術館や博物館なども、平日休日料金だけでなく、時間帯別の料金を設定するなど、まだ活用の方法はあるように思います。

その際に留意すべきは「公平性」の担保です。

需要に応じて「同じサービスであっても価格が異なる」ことを明示しておく必要があります。価格が変動することが十分に周知されていない状況であると、消費者の満足度が低下するリスクがあるからです。

また、早期予約による割引についても、1か月程度前の予約に対し割引価格を提示することは消費者満足度に影響は無いですが、直前期の価格変動に対しては、顧客満足度の低下の要因になることを明らかにした研究結果もあります。

では、小売店や飲食店など需要に応じて原価が大きく変動するビジネスにおいては、ダイナミックプライシングをどのように活用していくべきでしょうか。

AmazonなどのECサイトでは、ダイナミックプライシングの活用が進んできています。

食品スーパーなどのリアル小売店では、消費期限が近づいた商品や、閉店時間が近づくにつれ、生鮮や惣菜の価格が割り引かれていくことが一般的です。売れ残って破棄することになれば1円の利益にもなりませんので、割引してでも売り切った方が良いですよね。

また、飲食店などでも、雨の日や、ランチタイムなどのピーク時間帯以外での割引をしている店が少なくありません。

いずれも利益の最大化のために需要に応じた価格変動であるので、ダイナミックプライシングの活用と言えます。が、変動費が大きい業種であるため、その効果については大きいとは言えません(やらないよりは「マシ」という程度でしょうか)。

では、もっと積極的な活用方法はあるかと問われると、決定打となるような策は現状みあたりません。

本コラムで以前触れましたが、あえて言うならば、リアル小売店では「密集状態を避けるための時間帯別の割引制度」を用い、飲食店では予約システムを用いて、先々の需要をダイナミックプライシングの活用で予約として獲得していくことでしょうか。

ダイナミックプライシング活用のこれから

新型コロナウイルスがもたらした経済への影響は甚大であることは疑う余地はなく、それがどの程度になるのか見通しすら立たない状況です。

今後も需要が戻らないという前提で、如何にして長期的に経営が成り立つよう手を打っていくかは、冒頭に紹介したJR東日本に限った課題ではありません。

利益の最大化という点で、これまで活用が進んでいなかった業界においてもダイナミックプライシングの活用模索が進んでいます。

ダイナミックプライシングは過去の実績を分析し価格設定がされますが、最近ではビッグデータやAIを活用し、日毎どころか時間毎に価格を変動させることも技術的に可能になっているようです。

しかし、安易な導入は単なる安売りや顧客満足度の低下につながり、利益最大化という本来の目的から外れてしまう恐れがあります。また変動費の大きいビジネスにおいては、既存のビジネスモデルの延長上にダイナミックプライシングを導入することはリスクは大きいように思うところです。

いずれもダイナミックプライシング活用の際には「予約」という仕組みを切り離しては考えられないように思います。

価格設定の技術と予約システムが高度化し、あらゆる業種業界で利益最大化に向けたダイナミックプライシングの有効活用の方策が見いだされていくことを期待し、その動向を今後も注視していきたいと考えています。

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中谷淳一

関東学園大学経済学部 准教授
2001年筑波大学卒。株式会社ベンチャー・リンク、株式会社購買戦略研究所を経て起業独立。2011年3月、早稲田大学ビジネススクール修了(経営管理修士・MBA)。早稲田大学大学院博士後期課程を経て、2015年4月より現職。専攻はマーケティング戦略、ブランド戦略。大学教員の立場から企業や自治体の支援を行い、経営理論の実践に積極的に取り組む。

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