小売業界のDXとは? メリットや導入事例、成功させるポイントを解説
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少子高齢化、消費者のニーズの多様化、コロナ禍など多くの課題や困難に立ち向かうために、多くの業種でDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが進められています。小売業界でも、将来生き残る可能性を求めてDXを活用する企業が増加しました。この記事では、小売業がDXを取り入れる目的や取り入れるメリット、小売業のDXにおけるデジタル技術導入事例の紹介、さらにDXを成功させるポイントについて解説します。DX導入を検討している小売業の担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
小売業がDXを取り入れる目的
小売業を含め、世界のあらゆる業種でDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されています。DXとはデジタル技術を取り入れて新しいビジネスモデルを展開し、競争における優位性を得ることと定義されています。小売業がDXを進める背景や、取り入れる目的について解説します。
IT技術の進歩による競争に勝つため
IoTやAI、クラウドなどのIT技術が進歩する中、ITやデジタルの新技術を活用して新サービスや新商品、新しいビジネスモデルを生み出す企業や事業者も多く誕生しています。小売業も含めて既存企業がこれからの競争に勝つには、従来の経営手法や事業を続けるのではなく、新しいデジタル技術を活用して戦略を立てていく、DXの実行が必須となっています。
DXはただ事業や経営に新しいデジタル技術を取り入れるだけでなく、既存の古い慣習の大きな変更や、使われていないシステム(レガシー・システム)の破壊など、改革や変革をすることも含まれています。日本の各業種や企業においてDX推進が円滑に進められなかった場合、2025年以降年最大で12兆円の経済損失が発生するとの試算が出されました。経済産業庁ではこの「2025年の崖」を克服するためにも、各企業のDX推進が急務であると述べています。
長期にわたるデフレーション
日本国内では1999年以降、2012年ごろまで物価が持続的に下落するデフレーションの傾向にありました。物価だけでなく賃金や給料も下落傾向にあったため、消費の冷え込みが顕著となり、消費者は価格を重視して消費活動をするようになります。その結果各企業や事業者の努力により、価格が安く良いものが市場にあふれるようになりました。
デフレーションを経て、消費者の動向は大きく変化しました。価格に見合ったものでなければ手に取らなくなり、モノ自体が売れにくい状態が続いています。小売業ではコストカットや生産性の向上、新しいモノの価値を見出すなど消費者に商品を手に取ってもらうための取り組みや手法が求められています。
モノを魅力的に見せられたり便利に買い物ができたりするアプリ、多様な決済に対応したツールを導入するなど、消費者への新しいマーケティングの提供を実現できるのがDXです。
消費者のニーズや価値観の変化
かつては高級品や最新鋭のモノなど、消費者はモノを所有すること自体に価値を見出していました。大量生産時代やデフレーション時代を経て、消費者はただモノを所有するだけではなく、モノの機能や、モノを活用することで得られる顧客体験などに価値を見出すようになったのです。ただモノを作って売るだけでは売れないため、DXによって消費者がモノを購入して得られる顧客体験を提供することも、小売業には求められています。
コロナ禍におけるニューノーマルへの対応
2019年より世界的なパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症の影響により、2022年現在でも非接触非対面、移動をできるだけ避けるなどのニューノーマル時代への生活が求められるようになりました。対面式の店舗を構える小売店でも、ECサイトの構築やオンライン接客などのデジタルを活用したニューノーマルへの対応が必須となっています。小売業が顧客向けのニューノーマルへの対応をする上でも、DX推進が必須となっています。
実店舗とECサイトとの連携やショールーム化防止
顧客ニーズやニューノーマル時代への対応により、小売業の各店舗や企業がEC事業を展開することも多くなりました。EC事業を展開することで多くのメリットが得られる一方、デメリットもあります。そのひとつが、実店舗のショールーム化です。
実店舗のショールーム化とは、アパレル商品など実物を手に取りたい商品を実店舗で試してから、実際に購入するのはもっとも値段の安いところをECサイトから探して購入する消費者行動です。また、ECサイトのポイントと実店舗のポイントシステムが連携されていないなどの理由で、同一企業や関連店舗ながら実店舗、ECどちらか一方に購入機会をうばわれてしまうといったデメリットもあります。
実店舗のショールーム化防止や、実店舗とECサイトのシステムや取り組みを連携させるうえでも、DX推進が有効です。実店舗、ECサイトともに販売機会を取りこぼさずに済みます。
人手不足への対策
少子高齢化時代に突入したことによって、労働力の中心となる18歳から65歳未満の人口が減少傾向にあり、小売業も含めて日本全体での労働力不足となっています。さらに、薄利多売のスタイルが多いことによる年収や給料の低さ、長時間労働となる傾向、シフト制および土日祝日は客足が伸びることによる不定休や休みの取りづらさ、業務が多岐にわたり多くのスキルが必要となるなどの理由で、小売業はほかの業種よりも人手不足が顕著となっています。
人手不足への対処方法には、求人への応募が増えるように待遇や労働環境を改善する、シニア世代や外国人を含めた幅広い人材の採用、さらにAIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などの技術を取り入れるのも有効です。人手不足への対策にも小売業のDX推進が急務となっています。
▼合わせて把握したいDXのさまざまな課題については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
企業が抱えるDXの課題を知り自社のDX化を進めよう
小売業がDXを取り入れるメリット
小売業がDXを取り入れることは将来的な競争に勝つために必須であるほかにも、業務上でも多くのメリットが得られます。小売業がDXを取り入れることで得られる、具体的なメリットを解説します。
生産性の向上
DXを推進し、デジタル技術を利用、導入することで今まで手作業でやっていたことがデジタル化や自動化できるメリットがあります。業務が効率化するため、店舗や組織全体の生産性の向上にもつながるでしょう。生産性が上がることで、今までと同じ人員と時間でより多くの利益を出すことも可能です。
ヒューマンエラーの防止
DXによって業務がデジタル化し、効率が良くなると作業の煩雑さも軽減されるためヒューマンエラーの防止にもつながります。たとえばレジの計算を手作業で行っていると、計算ミスが生じます。レジの会計業務をバーコードスキャンにしたり、レジカゴのまま自動計算にしたりすれば、レジ計算に関してヒューマンエラーが発生する可能性が低くなります。手計算が自動計算になるなど、ヒューマンエラーが発生する要因そのものがなくなることもあります。
業務がスピーディになる
DXによって業務をデジタル化すれば、業務のスピードアップにつながります。実店舗においてお客様を待たせることによる機会損失なども防げるでしょう。従業員や組織での伝達や連携などのスピードも上がります。在庫管理や受発注などの意思確認や承認が必要な業務もスピーディに進められるのもメリットです。
スタッフや従業員の省人化
DXによるデジタル化は、AIシステムやIoTがスタッフや従業員に代わって業務を執り行うことになります。実店舗のスタッフや従業員の省人化ができるため、店舗の人員不足の解消や、人的コストの削減にもつながるでしょう。DXを取り入れることで、今までの人材が人にしかできない業務に集中でき、生産効率や顧客満足度の向上により、利益が上がるなどのメリットも得られます。
小売業のDX推進におけるデジタル技術の具体例
接客から販売、受発注、在庫管理など業務が多岐におよぶ小売業は、DXによってデジタル技術を導入できる業務も多くあります。小売業におけるDX導入で、活用されるデジタル技術の具体例を解説します。
オンライン販売
実店舗による対面販売だけでなく、ECサイトを立ち上げオンラインでの販売機会を設けることも小売業の代表的なDXへの取り組みのひとつです。顧客は時間や場所を選ばず買い物ができる、非対面非接触が実現できるなどのメリットがあるほか、店舗側でも実店舗と併用して販売機会が得られる、人員などのコストを減らせるなどのメリットもあります。
販売チャネルの統合、OMO
オンラインでのECサイトを展開すると実店舗のショールーム化や、実店舗とECサイトでのサービスの乖離が生じてしまうことがあります。これらの問題を解決できるのが、オムニチャネルです。オムニチャネルとは販売チャネルを複数展開(マルチチャネル)後、各販売チャネルでの顧客との接点や販売経路、サービスなどを統合することを指します。
たとえばオムニチャネルによって、実店舗とECサイトでのポイントを統合する、ECサイトで購入したものを実店舗で受け取る、実店舗で試着し予約したものが入荷後にECサイトで購入する、ということが可能です。
OMOとは、オンラインとオフラインが統合した状態を指します。オムニチャネルが顧客の販売をうながす施策であることに対して、OMOとはオンラインとオフラインを統合することで、よりよい顧客体験を提供することを指します。オムニチャネルやOMOの実現にも、DX推進が必須となります。
AI
設定済みのプログラムに沿って業務を自動で行うだけでなく、学習機能によって適切な判断を導き出すAIは、小売業のさまざまな業務の効率化につながります。
例えば以下のようなことが実現可能です。
- 過去の売上や発注状況、従業員の経験をもとにした在庫管理
- 店舗内カメラから顧客の属性や行動データを取得し、レイアウトの変更や仕入れ内容を最適化
- 在庫棚のカメラとセンサーによって発注や棚卸を自動化
- 店舗の機器や設備の使用方法が分からない、故障が疑われるといった際に顧客が自動音声通話で質問し、トラブルに対する解決方法や対処方法をAIが提案
IoT
IoTとは”Internet of Things”の略で、あらゆるモノをインターネットでつなぐ技術のことです。小売業の店内カメラなどにIoTを取り入れると、リアルタイムでの機器の管理やデータの収集が可能となります。収集したデータを分析することで、次のアクションを導き出す、機器に故障やトラブルが発生したときや、商品が清算されていないなどのエラーを瞬時に検知し事故などを防ぐなど、小売業の店舗運営の自動化にもつなげられます。
生体認証、画像認識
お客様の顔や指紋、商品を認証または認識する技術が生体認証や画像認証です。店舗内のカメラや認証システムでお客様の顔や指紋を照合すれば、購入履歴や来店履歴などのデータを来店とともに参照できるようになります。従業員が今までのデータを活かして、来店したお客様ひとりひとりに合ったオーダーメイドの接客を行うことも可能です。
商品画像を認証できるシステムを導入すれば、バーコード読み取りよりもスピーディに商品の清算ができます。レジ待ちの解消や店舗の省人化だけでなく、レジ業務の負担が減るぶん従業員がお客様との会話やおすすめの提案などのほかの業務に注力できるメリットも得られるでしょう。
ロボティクス
すでに製造業におけるDXではロボットやAI、IoTを組み合わせたスマート工場を実現している企業の事例もありますが、小売店でのバックヤード作業の効率化や負担軽減としても、ロボット技術が注目されています。たとえば店舗の欠品している商品棚を検知すると、ロボットがバックヤードより自動で商品を補充し、従業員は陳列するだけで業務が完了するなどの技術が取り入れられています。
ITシステム
DXの推進や導入を検討していても、コスト面や自社開発が不可能などで導入ができない小売店や企業もあります。すでにパッケージなどで展開されているITシステムを導入する方法も有効です。
ITシステムにはいろいろな種類があります。小売店向けのITシステムには、従業員の勤怠管理ができるシステムや、注文と決済をあらかじめ済ませて、行列や顧客の待ち時間を解消できるモバイルオーダーシステムなどがあります。
モバイルオーダーシステムは飲食業のテイクアウトサービスで導入されているイメージが強いですが、小売業でもイベント品や予約商品、限定商品などをあらかじめ予約し、任意の時間に受けとれるシステムとして活用できます。顧客側が好きな受け取り日時を選べるメリットがあるので、競合との差別化による販売機会の増加や、利益および顧客満足度の向上にもつなげられるでしょう。
小売業がDX導入を成功させるポイント
小売業がDX導入を成功させるためのポイントを解説します。
現状を整理して可視化する
DXとは、デジタル技術をただ取り入れるだけではなく、古いシステムを刷新しレガシーシステムをなくすことも含まれます。まずは店舗や事業、企業の現状を整理し、可視化することが重要です。必要なものと不要なものが整理できるため、必要なデジタル技術と不要な旧システムの区別のほか、仕組みの理解も深まり、DXの導入時に何をすべきかが分かるでしょう。
IT人材の確保
DXによって新しいデジタル技術を取り入れた場合、運用や保守を行う人材が必要になります。たとえばECサイトを開設した場合には、ECサイトの運用に人材が必要です。IT人材を確保する方法には、既存のIT人材を登用する、新しく社内で人材の育成をする、ITに特化した人材を採用するなどの方法が有効となります。
データを活用できる体制の構築
小売業でDXを推進すると、取得した顧客情報などのデータを活用することになります。注文や販売、発送などの通常業務でデータを活用するのはもちろん、データをマーケティングに活用することも可能です。データを実店舗、EC、営業、販売、仕入れ、在庫管理など各分野で共有し、活用できる体制を構築しておくことも重要です。
▼DXのさまざまな話題については、以下の記事でもご紹介しています。
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小売業でDXが推進されている理由や背景、DXを導入するメリット、小売業向けのデジタル技術導入例を紹介しました。小売業でDXを推進するには、店舗や事業所などの現場、本社など各拠点で抱える課題をふまえたうえで、最適なデジタル技術を取り入れることが重要です。店舗や事業に合うデジタル技術を取り入れ、これからの市場競争に勝てる企業力を身に付けましょう。